村井邦彦×松任谷由実「メイキング・オブ・モンパルナス1934」対談

村井邦彦×松任谷由実 特別対談

『深海の街』ジャケットに込められた意味

村井:2021年はツアーがたくさんあるんですって?

ユーミン:9月から予定しています。ツアーができる世の中になっていたらいいなと思います。

村井:なっていたらいいね。何がキーになるんだろう? ワクチンかなあ。

ユーミン:何でしょうね。ワクチンができても、もう戻らないものってあるじゃないですか。でも、ワクチンは大きいんじゃないですかね。

松任谷由実『深海の街』

村井:新作の『深海の街』でもう1つ印象的だったのはアルバムジャケットだな。潜水服を着て抱き合っているじゃない? あれはコロナの時代を表しているよね。

ユーミン:そうですね。まさに時代を表したジャケットだと思います。

村井:本当はスキンシップしたいのに、分厚い潜水服を着ていて、それでも抱き合いたいみたいなね。

ユーミン:その通り、それでもつながりたいっていう意味です。「愛しか残らない」というキャッチコピーがついています。

村井:なるほどね。

ユーミン:12月1日に発売だったんだけど、40年前の1980年12月1日に『SURF&SNOW』っていうアルバムを出しているんですね。リゾートアルバムで男の子と女の子がキスしているイラストがジャケットに描かれていたんです。40年後の『深海の街』では潜水服を着て抱き合っている。

村井:そういうのは全部ユーミンが考えるの?

ユーミン:主に松任谷ですね。

村井:なかなかのアイデアマンだねえ。

ユーミン:全部プロデュースされています。天才だなと思います。

村井:天才だねえ。映画監督になるといいね。

ユーミン:好きみたいですけどね。最近、すごくカメラにはまっていて。

村井:スチール?

ユーミン:スチール。内輪のコンテストみたいなので、よく優勝していますよ。

村井:それは楽しみだね。

ユーミン:村井さんのご子息(ヒロ・ムライ、ゴールデングローブ賞とグラミー賞を受賞)のようにムービーの方に行くにはどういう手順を踏むんですか。手順も何もなく?

村井:ヒロは子どもの頃から絵が好きで、年がら年中、描いていた。中学になったらビデオカメラをいじり出して、そこから自分でずっと作っていたんだよね。忍者の映画とか(笑)。

ユーミン:ロサンゼルス育ちの日本人だからニンジャという発想になるのかな?

村井:それもあるけど、アニメの『忍者タートルズ』(ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ)とか、こっちで流行っていた番組があったしね。ヒロの映像で印象に残っているのが、まだ高校1~2年の時の作品かな、彼の友達が必死に走っているわけ。ひたすら走るだけの映像で、何だか怖いんだよ。

ユーミン:どうなっちゃうんだろう。

村井:最後はトイレに飛び込むの。おなか壊したって(笑)。そんな映像を作っていた。だから手順じゃないんだろうね。だって、マンタの「知らないどうし」の映像を見て、例えば僕がいいなと思ったりすると、それが伝わって「今度こういう仕事やらない?」って、誰かから声がかかるかもしれないじゃない。

ユーミン:よく言っておきます。喜ぶと思います。いや、喜ばないかも。当たり前だと思っているから(笑)。

村井:そういえば、スピードに行ったってアルファミュージックライブで話していたじゃない? スピードって、今の若い人は分からないかな。六本木のロアビルの向かいにあった最初期のディスコティークなんだけどね。

ユーミン:行きましたね。

村井:柳田ヒロが中国風の刺繡のついた靴を履いていたって。

ユーミン:そうですね。忠(小坂忠)さんと、ヒロさんと、細野さんと、ドラムは松本隆さんかなあ。ザ・フローラルと後身のエイプリルフールのメンバーが私の中でごっちゃになっていますけど。とにかく私はシー・ユー(・チェン)にくっついて、あっちこっちに行っていました。

村井:スピードには福沢幸雄(福沢諭吉のひ孫、カーレーサー)なんかもよく行っていたのに、どうして僕はあんまり行かなかったんだろう。忙しかったのかな。

ユーミン:村井さんはああいうところで踊るタイプの人じゃないですよね。

村井:まあ、そうかな(笑)。だから行かなかったのかも。大きいな店じゃなかったよね? 何人くらい入れたんだろう?

ユーミン:50人でギューギューじゃないですか。

村井:シー・ユー・チェンに連れられて、ユーミンも踊っていたの?

ユーミン:踊るというか、見ていましたね。観察していた。カルチャーショックだったんですよ。よく「ユーミンは子どもの頃から足繁くキャンティに通っていた」みたいなストーリーにされちゃうんですけど、そんなに行けるほどお金があるわけないんです。キャンティの裏にスペイン村ってあったのを覚えていませんか?

村井:ああ、作曲家の浜口庫之助さんが住んでいた。福沢幸雄もいたね。

ユーミン:そうです。ミュージカル「ヘアー」の連中がコミューンみたいにして暮らしていたんです。私はそこに入り浸っていました。

村井:そうなんだ。ああ、そろそろ話し始めてから1時間近くになるね。またこういう対談の機会を持ちたいと思うんだけど、今日はこのあたりにしておきましょう。忙しいところありがとう。体に気をつけて、ますますのご活躍を。

ユーミン:こちらこそ、ありがとうございます。村井さんもどうぞお気をつけて。

『モンパルナス1934~キャンティ前史~』特集

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