『TES 20/21』が打ち出す“アーカイブ型オンラインフェス”という新たな概念 今年開催の配信ライブを一挙に楽しみたい貴方へ
2020年2月以降、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて音楽シーンは改革を迫られた。感染対策を万全に整えながらも、ライブ活動がままならずフェスの開催すらできないという苦境。CDショップでのインストアライブなど対面販売にも大きな制限がかけられた。
打開の鍵となるのは、世にいうバズワード=DX(デジタルトランスフォーメーション)化だ。アナログ偏重であった業界のデジタルシフト。テクノロジーを駆使してマーケットの対象範囲、マネタイズなどを根底から変化させる必要に迫られた。8月には米津玄師がアルバム『STRAY SHEEP』のリリースに伴い、各音楽ストリーミングサービスで楽曲を開放したように、日本の音楽シーンもCDを中心としたフィジカルマーケットからようやくストリーミングマーケットへと動きはじめたタイミングだ。
そして、苦境を打開するもう一つの答えがオンラインライブだ。
しかし、収益性の確保や運営する上でのノウハウなど課題は山積みだ。もちろん、観客がいないフロアに向けてライブを行うことに対して、アーティストがモチベーションを保てるか、という不安もあった。しかし、自分たちはもとよりライブエンターテインメントに従事する関連スタッフが窮地に陥っていたこともあり、今春以降、多くのアーティストがオンラインライブに挑戦したのだ。
無観客ライブや、有観客と配信を組み合わせたハイブリッドな施策、過去の映像利用、スタジオでの演出を駆使した映像表現、事前収録でのライブ、ARを駆使してアバターが登場するバーチャルライブなど、それぞれが工夫を凝らし、オーディエンスとの新たなライブコミュニケーションを試みた。5月には、経済産業省からJ-LODlive補助金(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)が決まるなど、オンラインライブの経費、その50%が国から補助金が支払われる仕組みもスタートした。
その結果、すでにオンラインライブを事業展開するサービスも30社を超えている。
なかでも今年エポックメイキングだったのは、6月に横浜アリーナで行われたサザンオールスターズの無観客配信ライブ『Keep Smilin’~皆さん、ありがとうございます!!~』だ。「いつも心に音楽を」、「音楽を通じて皆さんが笑顔でいられますように」というメンバーの思いのもと、ファンはもとよりコロナ禍において通常の業務が困難となっているライブスタッフ、さらには感染拡大防止に尽力する医療関係者をはじめとしたエッセンシャルワーカーへの感謝を込めたライブとして開催された。一夜限りの同ライブに対して、約18万人がチケットを購入したという実績は、オンラインライブのビジネス的可能性に夢を与えることとなった。
7月に開催された山下達郎によるキャリア初の配信ライブ『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』も大きな話題となった。高音質動画配信サービスMUSIC/SLASHにて、2017年『氣志團万博』における圧巻のパフォーマンスを40分ノーカットで配信したほか、2018年に京都の老舗ライブハウス、拾得で行われたアコースティックライブから数曲を初公開した。そう、オンラインライブは必ずしも生配信である必要はないのだ。
8月には、2日間で6万人が視聴したサカナクション初のオンラインストリーミングライブ『SAKANAQUARIUM 光』も画期的だった。“ライブ映画”というコンセプトのもと、こだわりぬいた演出の数々が注目を集め、サカナクションらしく、ドイツのKLANG:technologiesといった最新技術を応用した3D音響システムを実現したことも驚きであった。
12月に開催された『YouTube Music Weekend』も、ユーザーファーストなコンテンツだ。合計48組のアーティストが参加、それぞれのYouTube公式アーティストチャンネルでコンサート映像などのコンテンツをプレミア公開し、期間限定でアーカイブ化される無料オンラインライブフェスとなった(※スーパーチャットによる投銭機能あり)。KREVA、マカロニえんぴつ、GLAY、YOSHIKI、SKY-HI、布袋寅泰、Vaundy、Reol、いきものがかりなど、豪華アーティストのライブを一挙に振り返る機会となった。
結果、オンラインライブは体験としてもビジネスとしても、リアルライブを代替するものではなく、新たなマーケットの開拓となり、これまでにない表現にチャレンジできる場となる可能性が見えてきた。ノウハウも蓄積され、チケットの適正価格も2500円~4000円ぐらいに落ち着いてきた。リアルライブの約50%から70%の設定だ。
アーカイブ可能なオンラインライブは、公演終了後もチケット購入が可能であることにも注目したい。終演後でも、ライブレポートやSNSなどでの盛り上がりに応じてアーカイブチケットが売れていく。これはリアルライブではできなかったことだ。今後の応用に期待が持てる試みだ。
オンラインライブのメリット、それは子どもがいる家庭や住んでいる地域の問題でなかなかライブに足を運べなかったファンや、学校生活や仕事で忙しい人たちなど、普段のコンサートではカバーしきれなかった層も巻き込むことができるということだ。さらに、リアルライブとまではいかないが、オンラインであればお試し感覚で気軽にチケットを購入できる、というライトな音楽ファンの声も多く聞いた。自宅で食事をしながらゆったりライブを観ることができる体験も有意義だ。このような視聴環境も、新たなマーケットの開拓といえるだろう。