サザンオールスターズ、横浜アリーナ無観客配信ライブで届けたエールと一大エンターテインメントショー

サザン、横アリ無観客配信ライブで届けたエール

 コロナ禍により様々なダメージを受けているファンを元気づけ、喜ばせること。感染拡大の最前線にいる医療関係者、さらに、ライブの停滞により困難な状況に置かれているコンサートスタッフへのエール。そして、デビュー42年目を迎えたバンドの豊潤な魅力を提示すること。初の無観客配信ライブでサザンオールスターズは、国民的ロックバンドとしての矜持と覚悟を、圧倒的なエンターテインメント性とともに見せつけた。

 2020年6月25日、サザンオールスターズが横浜アリーナで初の無観客配信ライブ『サザンオールスターズ 特別ライブ 2020「Keep Smilin' 〜皆さん、ありがとうございます!!〜」』を開催した。

 この日は、サザンの42周年のデビュー記念日。ライブはABEMA、GYAO!など8つのメディアで配信。3600円のチケット購入者は約18万人、推定視聴者は約50万人と大きな注目を集めた。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、公式ホームページで「Keep Smilin’〜“出来ることから”ちょっとずつ〜」を立ち上げたサザン。30曲以上のMVフルバージョンの公開、桑田佳祐のレギュラーラジオ番組での特別企画、WOWOWでのライブ12時間特番無料放送などを行ってきた。桑田の発案による今回の配信ライブは、「いつも心に音楽を」「音楽を通じて皆さんが笑顔でいられますように」というメンバーの思い、ファン、医療関係者、音楽関係者へのエール、そして、42年目を迎えたサザンの充実ぶりが強く感じられる一大エンターテインメントショーとなった。

 ライブ配信は20時過ぎにスタート。まずは観客がいない客席の様子が映される。女性の影アナによる注意事項、「ごはんを食べながら、お酒を飲みながら見ていただいてもかまいません。それぞれの楽しみ方で、ライブに参加していただければと思います!」という言葉の後、バンドメンバーが手を振りながら登場。

 1990年のアルバム『SOUTHERN ALL STARS』の収録曲「YOU」からライブをスタートさせた。洗練されたバンドのアンサンブル、切なさと爽やかさが混じるメロディが広がり、サザン特有の音楽空間が生まれる。メンバーの演奏、桑田の表情と動き(“YOU”に合わせて画面越しのファンを指さす)をじっくり味わえるのは、配信ライブならではの魅力だ。「ありがとー!」という桑田の声に導かれ、煌びやかなシンセの音色からはじまる「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」、イントロが聴こえてきた瞬間から静かな感動が広がる「希望の轍」と代表曲を続けて披露。「希望の轍」では、〈大変な毎日をご苦労様 今日は楽しく行きましょう〉と歌詞を変え、視聴者にメッセージを送った。

 最初のMCで桑田は、「スタンド! アリーナ! センター! そして画面越しの皆様!」と呼びかけ、「お疲れ様です、みなさん。サザンオールスターズ、みんなのおかげ、スタッフのおかげで、今日、デビュー42周年を迎えました!」と挨拶。さらに医療関係者に対する感謝を伝え、「みなさん(の姿)は見えないけど、みなさんの魂はここにあります」と、視聴者に向けた思いを口にした。(その直後、「では、最後の曲です」と笑いを取ろうとするところも素晴らしい)

 この後は、サザンオールスターズの豊かで奥深い音楽性をたっぷり堪能できるシーンが続いた。ブラックミュージックとロックが刺激的に交差する「Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)」、60年代のロックンロールへの憧憬が感じられる「フリフリ’65」、歌謡のムードを叙情的に描き出す「朝方ムーンライト」、そして、ソウル、ファンクのエッセンスを注入したアンサンブルと濃密なグルーヴを含んだフロウが響く「タバコ・ロードにセクシーばあちゃん」(名曲!)。これらはすべて80年代に発表された楽曲。ソウル、ラテン、ロックンロール、歌謡などのルーツミュージックを貪欲に乗り込み、さらに日本のバンドとしてのアイデンティティを色濃く反映されたサザンの音楽性は、2020年においてもきわめて刺激的だ。

 さらにノスタルジックな夏の風景を投影した「海」「夕陽に別れを告げて~メリーゴーランド」が演奏されると、Twitterでも「心のなかにしみすぎて涙が出る」と感涙のコメントが溢れた。

 また原由子と桑田のデュエットソング「シャ・ラ・ラ」では、過去のライブにおける観客の映像とともに「早くまた皆さんとお逢いできますように」というメッセージが映し出された。

 「盛り上がってますか? 飲みすぎだよ!」と視聴者に話しかけ、メンバー紹介を行った後、ライブはエンターテインメントの色合いを強めていく。「天井桟敷の怪人」では深紅のドレスに身を包んだダンサーが情熱的なパフォーマンスを繰り広げ、「愛と欲望の日々」では和装のダンサー数人とともにセクシーな雰囲気を演出(エリック・クラプトンを想起させる桑田のギターソロもエロい)。マーチングバンド風のアレンジ、アイリッシュ的な音色が取り入れられた「Bye Bye My Love(U are the one)」を挟み、名曲「真夏の果実」へ。客席に置かれたリストバンドの光を活かした演出も印象的だった。

 客席の真ん中に設置された聖火台の火とともに演奏された「東京VICTORY」からライブは後半へ。カラフルなレーザーがディスコティックなサウンドを彩る「匂艶(にじいろ)THE NIGHT CLUB」、アメコミ風ルックのダンサーが舞い踊った「エロティカ・セブン EROTICA SEVEN」、桑田が“疫病退散”と書かれたアマビエ付きのヅラを被り、ビキニ&ウサギ耳のダンサーとともに披露された「マンピーのG★SPOT」と、キャリアを代表するヒットチューンを連発。“望まれている曲はできる限りやる”という意思を感じさせる曲目、世の憂さを晴らすようなド派手な演出など、“これぞサザン!”と快哉を叫びたくなるステージが繰り広げられた。本編ラストは「それでは謹んで、我々の42年前のデビュー曲をお聴きください!」(桑田)という言葉に導かれた「勝手にシンドバッド」。ラテンとロックと歌謡が融合した記念碑的な楽曲が鳴り響き、サンバダンサー、お祭り法被を着た男性が客席で踊りまくる。「いつになればコロナが収束するのかな お互いにそれまではグッと我慢の暮らし続けましょう」という替え歌からは、リスナーに対する桑田の思いやりを感じ取ることができた。

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