山下達郎、初の“高音質”ライブ映像配信で届けた極上の時間 貴重なパフォーマンスの数々を振り返る
山下達郎が7月30日、初めてライブ映像配信を行った。1975年のソロデビューから現在に至るまで、ライブ映像を作品化したことがない山下。2012年に映画館で『山下達郎 シアター・ライヴ/PERFORMANCE 1984-2012』を限定公開したが(このときも山下は、自ら映画館に出向き、音響を入念にチェックした)、ライブの映像を観られる機会はきわめて稀だ。『TATSURO YAMASHITA SUPER STREAMING』とタイトルされた今回の配信は、音楽動画配信サービス「MUSIC/SLASH」の“こけら落とし”として行われ、貴重なライブ映像を質の高いサウンドとともに堪能できた。
今回配信されたのは、京都のライブハウス・拾得で2018年3月16日に開催されたアコースティックライブから6曲。そして、2017年9月17日の『氣志團万博』出演時の約40分のステージがノーカットで届けられた。配信は20時から。ログインは19時から可能で、普段のライブと同じく、山下の選曲によるオールディーズがBGMとして流れていた。見逃し配信やアーカイブ設定がないため、SNS上では開演前から“山下達郎 配信ライブ 待機中”という書き込みが多数見られた。
拾得のライブ映像は、ライブハウスの外観、観客の姿を映し出した後、「ターナーの汽罐車」からスタート。伊藤広規(Ba)、難波弘之(Key)とともにアコースティックアレンジでヒット曲「あまく危険な香り」、鈴木茂「砂の女」と幅広い楽曲で楽しませる。ギター、ベース、鍵盤のシンプルな構成によって、楽曲のコード構成、アレンジの妙が際立ち、山下のふくよかで濃密なボーカルが広がる。演奏の深み、老舗ライブハウスの雰囲気を含め、絶品としか言いようがない映像だった。
選曲も絶妙。「希望という名の光」の〈運命に負けないで/たった一度だけの人生を/何度でも起き上がって〉というフレーズは、コロナ禍の社会に向けた力強いメッセージとして響く。さらにレニー・ウェルチの歌唱で知られる「SINCE I FELL FOR YOU」で切ない叙情を描き出した後は、マーヴィン・ゲイの「WHAT’S GOING ON」へ。1971年に発表されたこの曲は、当時の社会情勢に対する問題提起に溢れたメッセージソング。この曲を選んだ山下の意図に思いを馳せたのは、おそらく筆者だけではないだろう。
特筆すべきは、やはり音の良さ。7月26日放送のラジオ『山下達郎の楽天カード サンデー・ソングブック』(TOKYO FM)でも、ネットというのはかなり不安定なメディアとし、ミックスダウンやリマスターを行うことで、ネットで配信されるクオリティに沿った音質向上を務めたと語っていたが、ミックスダウン、リマスターを山下本人が手がけたサウンドは、配信とは思えないほどのクオリティが実現されていた。リスナーの視聴環境に左右されるのはしょうがないが、ある程度のスピーカーやイヤホンがあれば、(音にうるさい達郎ファンも)十分に満足できたのではないだろうか。