小野島大の新譜キュレーション
君島大空、青葉市子、Serph、DJ TASAKA、Machinedrum……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜9選
Rian Treanor『File Under UK Metaplasm』
英国の名門レーベル<Warp>を生んだシェフィールドは、オウテカやLFOを生んだ世界屈指の電子音楽都市ですが、その最新の嫡子がリアン・トレーナー(Rian Treanor)。この連載でも1stアルバム『Ataxia』を紹介しましたが、それに続く2作目が『File Under UK Metaplasm』(Planet Mu)です。前述の記事では「ジューク/フットワークをIDM的に結晶化したようなエクスペリメンタルテクノ」と書きましたが、今作はタンザニアのストリート発ダンスミュージック、シンゲリに触発されて作られたそう。前作がお行儀良く聞こえるぐらい、さらに荒々しくストリート感たっぷりのワイルドでエネルギッシュなサウンドは、ちょっとヤバいぐらい強烈な刺激に満ちています。こういう音楽こそがエレクトロニックミュージックを前に進めるのだと思います。爆音再生を強くオススメ。前作以上の必聴作。
Stazma『Fluorhydrique EP』
もうひとつ強烈なやつを。フランスのプロデューサー、ジュリアン・ギルモットのプロジェクト、スタズマ・ザ・ジャングルクライスト(Stazma The Junglechrist)がスタズマと改め、EP『Fluorhydrique EP』(Defunkt Records)をリリース。アシッド+ドラムンベース+ブレイクコアというスタイルはスクエアプッシャーからの影響が大きそうですが、スクエアプッシャーのようなジャズ色はなく、より振り切った感じのエクストリームで暴力的とも言えるブレイクビーツは、さすが元ヘヴィメタルバンドをやっていただけのことはあります。今年出たアルバム『Shapeshifter』よりも、こちらはブレイクコアとして徹底度が増した感じで痛快です。
Krust『The Edge Of Everything』
シェフィールドにおけるリアン・トレーナーの大先輩、ジャングル〜ドラムンベースの創始者のひとり、クラスト(Krust)の14年ぶりとなる新作が『The Edge Of Everything』(Crosstown Rebels)です。ダークでありながらシャープで、切れ味鋭いブレイクビーツとフロアを揺るがす重低音の迫力が素晴らしすぎます。長い活動休止期間があったとは思えない、現役感覚バリバリのリアルベースミュージックの真髄。英国を代表するテックハウスのレーベル<Crosstown Rebels>からのリリースというのも面白い。
Machinedrum『A View of U』
LA拠点のプロデューサー、トラヴィス・スチュアートのプロジェクト、マシーンドラム(Machinedrum)の9作目が『A View of U』(Ninja Tune)です。エレクトロニカからジャングル〜ドラムン、ジューク、ヒップホップやグライム、EDM、UKベースまで串刺しにする研ぎ澄まされたビートとともに、メロウでエモーショナルなR&B〜ポップスとしても秀逸な出来。キャリアの蓄積を感じる手練れの作品です。
ではまた次回。
■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebook/Twitter