GRAPEVINEのライブが呼び起こす前向きな感情ーー音楽での純粋な結びつきを示した中野サンプラザホール公演
「新しいグッズの“買い物かご”が爆売れしてますけど、持っている人、いませんね」「あと5万曲やります!」(田中)というMCから、ライブは後半へ。華やかなホーンセクションを取り入れたアッパーチューン「Alright」、代表曲の一つである「光について」、ディープかつエモーショナルなバンドサウンドが渦巻く「CORE」、そして、解放感のあるメロディと〈今 限界をも超える そのくらい言っていいか〉という歌詞が響いた「超える」で本編は終了。
「最終日なので何かしらのサプライズ発表があるんじゃないかと勘繰ってるかもしれないけど、ホンマにないんです。それだけ世の中は深刻だということです。もうしばらくは我慢で、明るい来年を迎えたいと思います。というわけで、良いお年を!」「3本で終わってしまうのは寂しいですが、次のアクションをどうか期待しておいてください」という言葉で始まったアンコールも聴き応え十分。繊細で美しい旋律が広がる「1977」、高揚感に溢れたバンドサウンドが鳴り響き、観客が手を挙げて応えた「ミスフライハイ」などを披露し、ライブはエンディングへ。驚くほど長く続いた拍手が、この日のライブの充実ぶりを証明していた。
文芸誌『文學界』(2020年7月号)に掲載されたエッセイ「群れず集まる」(田中和将)のなかで田中は、「私は自分の作るものが芸術だとも娯楽だとも、人の役に立つとも思っていない。あるとすれば、私以外の手が入って、バンドの何かが作用して、聴き手の何かが作用して、やっと有意義なものが産まれるかもしれないという期待である。私と似たような者の居場所が生れるかもしれないと。」と記していた。コロナ禍において、というか、ずっと以前から「勇気を与えたい」「元気になってほしい」という物言いに違和感を覚えてきた筆者だが、この夜のGRAPEVINEのライブを観て、明らかに精神状態が良くなったし、このライブのことを誰かと語りたくなった。GRAPEVINEの演奏によって、自分のなかにある何かが呼応し、前向きな感情を掴むきっかけが生まれるーーこの作用をもっと味わいたいと強く思う。