GRAPEVINE、中村佳穂との『SOMETHING SPECIAL』 貴重コラボも実現した濃密ステージ

GRAPEVINE、中村佳穂との濃密なステージ

 GRAPEVINEの対バンツアー『SOMETHING SPECIAL』。約3年ぶりに開催された同ツアー、今回のゲストは急激に注目度を高めている中村佳穂。貴重なコラボレーションが実現するなど、両者の際立った独創性がひとつになった、濃密なステージが繰り広げられた。

 最初に登場したのは、中村佳穂。ぎっしり詰まったフロアを見て「めっちゃいる!」と笑顔で話し、バンドメンバーの荒木正比呂(Key/レミ街)、深谷雄一(Dr/レミ街、egoistic 4 leaves)、西田修大(Gt)、MASAHIRO KITAGAWA(Cho&シーケンサー)に「準備はいいですか」と確認した後、“これじゃない、これ? これじゃない、これかな?と言いながら歌を作っていた”と語り始める、いや、歌い始める。そこに中村が弾くエレピが加わり、発する言葉がしなやかに躍動しはじめ、ソウルフルとしか言いようがないフェイクとともに“愛の歌はどのくらい?”という(GRAPEVINEの「Alright」の)フレーズが響き渡り、そのすべてが美しい音楽へと結実する。じつはこれ、すべて彼女のアドリブ。日本語によるソウルミュージックの真骨頂をいきなり見せ付けられ、心を強く揺さぶられる。

 セットリストの中心は、昨年リリースされ、2018年を代表する傑作と評されている「AINOU」の楽曲。洗練されたダンストラックと〈愛や答えはずっと残る甘いガム〉という言葉がひとつになった「GUM」、パーカッシブなリズムと起伏に富んだメロディが心地よいグルーヴにつながる「アイアム主人公」、テン年代後半のオルタナR&Bのエッセンスを感じさせる「SHE’S GONE」、MASAHIRO KITAGAWAの独唱パートを挟んだスロウナンバー「get back」。アルバムの音源通りではなく、随所にアドリブを織り込んだ演奏は、まるで生き物のように躍動し、オーディエンスの心と体を解放していく。先鋭的なビート感とオーガニックな手触りがひとつになったサウンドメイクも素晴らしいが、中心にあるのはやはり彼女の歌。わかりやすさと独創性を兼ね備えた彼女の歌には、それ自体が濃密なグルーヴを含んでいて、めちゃくちゃ気持ちいい。トラップ以降のヒップホップ、ネオソウル以降のジャズのエッセンスも感じされるが、たとえば矢野顕子やコリーヌ・ベイリー・レイがそうであるように、“その人自身が音楽”という雰囲気を備えているのだ。彼女の歌を中心に置き、緻密なコードワーク、ポリリズムを交えたアンサンブルを繰り出しながら、オープンなムードを生み出すバンドメンバーの演奏も絶品。ラストは「きっとね!」。そのポジティブなパワーもまた、彼女の音楽の求心力につながっていたと思う。

 続いてはGRAPEVINE。右手を軽く上げて田中和将(Vo&Gt)が登場すると、会場からは大きな歓声が巻き起こる。オープニングは最新アルバム「ALL THE LIGHT」のリード曲「Alright」。〈愛の歌はどのくらい〉というフレーズが解放的なバンドサウンドとともに放たれ、現在のGRAPEVINEのモードをはっきりと照らし出す。この楽曲が持つポジティブなパワーが、ニューアルバムの充実ぶりにつながっているのだと、改めて実感させられた。

 さらに練られたリズムアレンジと重厚なコーラスワークが印象的な「Esq.」(アルバム『Burning Tree』収録/2015年)、オーセンティックなブルーズを想起させる重厚なアンサンブルが響き渡った「GRAVEYARD」(『déraciné』収録/2005年)など、様々な時期の楽曲を次々と披露。もちろん違和感はまったくなく、まるで1枚のオリジナルアルバムのように楽しむことができるし、楽曲の連なり方によって、新鮮な印象を感じ取ることができる。作品ごとに少しずつモードを変えながらも、根本の部分は決して揺るがない、GRAPEVINEの在り方が真っ直ぐに感じられるステージだ。

「我々と対バンするとグイグイ売れるということで知られる“アゲ”バンド、GRAPEVINEです(※ちなみに2016年の『SOMETHING SPECIAL』の対バン相手はSuchmosでした)。まあ、中村佳穂がもうグイグイ来てますけどね!」「ニューアルバム『ALL THE LIGHT』が出まして。今日はそのなかから小出しにしていくので、耳の穴かっぽじって聴いて、なんとなく覚えていってください」というMCの後は、高野勲(Key)壮大なシンセを取り入れたサウンド、優しさと美しさを備えたメロディを軸にした「雪解け」、金戸覚(Ba)のベースラインを中心にサイケデリックな雰囲気が広がる「ミチバシリ」といった新作の収録曲が続く。亀井亨(Dr)のタイトにして正確無比なビート(その優れたリズムキープ力は、GRAPEVINEの要だ)、音数を抑えたフレーズで楽曲に深みを与える西川弘剛(Gt)のギタープレイを含め、バンド全体の有機的なアンサンブルによって原曲の良さがダイレクトに伝わってくる。アルバムのツアーは4月からだが、『ALL THE LIGHT』の楽曲は既にメンバーの体に馴染んでいるようだ。アルバムのインタビューで田中は「今回のアルバムは、いつも以上にライブで再現できない曲が多いんですよ。ライブならではの演奏になるでしょうね」とコメントしていたが、その言葉を証明するような素晴らしい演奏だったと思う。

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