アルバム『ALL THE LIGHT』インタビュー
GRAPEVINEが語る、アルバム制作に向かう意識 「ちょっとした突破口はやっぱり必要」
GRAPEVINEが16作目のオリジナルアルバム『ALL THE LIGHT』を2月6日にリリースする。華々しいホーンをフィーチャーした「Alright」、エレキギターの弾き語りによる「こぼれる」という2曲のデジタルシングルを含む本作は、ホッピー神山のプロデュースのもと、バンドが持つ多彩な表情が感じられるアルバムに仕上がった。「Era」「すべてのありふれた光」など、“光”をモチーフにした楽曲も、本作の解放的な雰囲気につながっている。メンバーの田中和将(Vo/Gt)、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)に、本作の制作とバンドの現状について聞いた。(森朋之)
任せることが増えている(亀井亨)
ーー16thアルバム『ALL THE LIGHT』は、ホッピー神山さんがプロデューサーとして参加した作品。ホッピーさんは1stアルバム『退屈の花』(1998年)、ミニアルバム『Everyman, everywhere』(2004年)にも参加していますが、一緒に制作するのは久しぶりですね。
田中:そうですね。近年はセルフプロデュースでアルバムを作ることが続いていて。途中、(アルバム『BABEL, BABEL』で)高野寛さんに何曲かお願いしたこともあったんですが、前作は20周年ということもあり、完全に自分たちだけで制作して。なので「次こそはプロデューサーを立てよう」という話はかなり前から出てたんですよ。ただ、バンドの性分として明確なビジョンがないというか、「こういうことをやりたいから、この人にお願いしたい」という具体的な話になかなかならず。
西川:うん。
田中:そんなこんなで、ホッピーさんの名前が出てきて。以前にも絡んだことがあるし、かなりストレンジな方なのも知っているので、「いまやったら、おもしろいことができるかも」っていう。僕らもそれなりに成長してますからね。
ーーGRAPEVINEにとって、プロデューサーを立てる意義ってなんですか?
西川:メンバーがもう一人増えるというか、新しい意見をもらえるということですよね。あとはアイデアをまとめてもらえるということかな。「責任を取ってもらう」という感じもあるかも(笑)。判断に迷ったときは、基本的にお任せするので。
田中:制作に入る前から「乗っかろう」みたいなモードだったんですよ。
西川:判断も早いですからね、ホッピーさんは。レコーディングの前の晩に「あの曲にハンドクラップを入れたい」ってメールしたんですけど、次の日、10分くらい遅刻してスタジオに行ったら、「もう入れたよ」って(笑)。
田中:「昨日、西川くんから『ハンドクラップを入れたい』と連絡があったから、ここにいる人間でやろう」と言われ(笑)。
西川:「もう入れたんですか?」と言ったら、「Time is money」って返されました(笑)。
亀井:とにかく作業が速いんですよね、ホッピーさんは。僕らだけでやってると煮詰まったり、周り道することもけっこうあるんだけど、今回の制作はスムーズに進むことが多くて。曲作りのセッションの段階から入ってくれた曲もあるんですよ。
ーー「ミチバシリ」「Asteroids」「God only knows」ですね。プロデューサーを入れることで、制作のモチベーションにもつながる?
田中:そうですね。これだけキャリアを重ねてくると、ぶっちゃけた話、モチベーションを保つのもそれなりに大変だったりするので。プロデューサー、サポートメンバーもそうですけど、外から入ってきて、風の入れ替えをしてくれることを求めているというか。
何でもそうだと思うけど、同じメンバー、同じチームで長くやってると、視野が狭くなるじゃないですか。ちょっとした突破口はやっぱり必要ですよね。
ーー最初に配信リリースされた「Alright」はかなり派手でポップなナンバー。アルバムの導線として最適な曲だと思いますが、やはり本作のために制作された曲なんですか?
田中:いや、以前のアルバムのセッションのときに作っていた曲なんですよ、じつは。でも、そのときは暗礁に乗り上げてしまって、保留してたんです。亀井:うまくまとまらなかったんですよね。
田中:うん。今回のアルバムの制作が始まった時点では、そこまで曲が揃ってなかったから、候補曲のなかにコレも入れてたんです。そうしたらホッピーさんが「自分にアイデアがあるから、この曲はぜひやろう」と。
ーー当初のアレンジとはかなり違ってるんですか?
田中:考え方がぜんぜん違いますからね。これは僕の曲なんですけど、作った時点ではポール・ウェラーみたいな感じだったんですよ。ホッピーさんが「生のホーンを入れよう」と言い出して、ガラッと雰囲気が変わりました。
亀井:そういう発想はぜんぜんなかったので。イントロのフレーズも、後からホッピーさんが入れたんですよ。
ーー確かに“乗っかって”ますね。
田中:まあ、やってみないとわからないですから。良くも悪くも主張がないといいますか(笑)、曲が良くなる、おもしろくなるんだったら、どう変えてもらってもいいんですよ。メンバーが持ってきたデモもイジり倒すし、端折ったり、組み替えたりしますから。
ーー「Alright」をリード曲にしたのも、ホッピーさんのアイデアなんですか?
田中:いや、それはスタッフですね。「Alright」をリード曲にしたいと言われて、「派手だし、いいんじゃない?」っていう。
亀井:そういうところも任せることが増えてますね、最近は。意見があるときは言いますけど、自分たちの判断が正しいかどうかわからないので。
ーー以前は「これはやりたくない」という主張が強かった気がしますが。
田中:そうですね(笑)。でも、3枚目、4枚目のアルバムくらいからは、まわりの意見に頼ってたんじゃないかな。特にシングル曲を決めることは、任せることが多かったと思います。
ーーじつは周囲の意見にも耳を傾ける、開いたバンドだったと。
田中:閉じてるも開いてるもなくて、曲を同等に扱ってるだけなんですけどね。シングルもカップリングもアルバムの曲も同じような熱意で作ってるので。
ーーなるほど。今回のアルバムは、GRAPEVINEのいろいろな表情が堪能できる作品だと思いますが、そこは意識していました?
田中:これもホッピーさんが言ってたことなんですけど、「個性的なツラの曲が並んでたらおもしろいんじゃないの?」という話はしてました。そういう意味ではカラフルなアルバムになったと思いますね。
亀井:プリプロを2回に分けてやったんですけど、最初は何も考えずに曲を持っていったんですよ。その後、ホッピーさんが全体のバランスを考えて、「弾き語りの曲があったらいいね」とか「GRAPEVINEの王道みたいな曲がもう一つほしい」みたいなことを言ってくれて。
田中:うん。プロデュースするにあたって、ここ最近の3〜4作を聴き込んでくれたみたいなんですよね。そのうえで、自分たちに何をやらせたらおもしろいかを考えてくれたんじゃないですかね。
ーー弾き語りの曲って、「こぼれる」ですよね。
田中:そうです。「エレキの弾き語りの曲を作ってくれない?」とリクエストがあって。この曲を先行配信したのは、よくわからないですけどね。けっこう地味な曲なんで(笑)。
亀井:いままでにないタイプの曲だけどね。
田中:異色ですよね。尖がった部分を出すという意味では、これを配信するのは正解だったのかも。
ーー歌詞は曲が揃ってから書いたんですか?
田中:その都度、イメージしながら書き進めていった感じですね。近い時期に書いてるので、自然と統一感は出てるなって自分でも思いますけど。