Yacheemiの新譜キュレーション
タイ・ダラー・サイン、クイーン・ナイジャ、ブライソン・ティラー……現行R&Bをより一層楽しめる新作アルバム3選
トラップ・ソウル旋風を生み出した立役者!
デビュー作へのオマージュとなる新作
Bryson Tiller『A N N I V E R S A R Y』
2015年にSoundCloudで発表された「Don’t」が話題を呼び<RCA>と契約したケンタッキー州出身のシンガー、ブライソン・ティラー。デビュー作『T R A P S O U L』のタイトルに冠された“トラップソウル”は、以降2010年代後半のR&Bを代表するスタイルとなり、その音像をいち早く確立した意味でも重要な作品となった。
多忙なツアーと並行して制作された2017年の前作『True To Self』はBillboard 200チャートで見事首位を獲得したものの、本人曰く「何がやりたいのか分からなかった」そうで、その後、3年もの期間取り組んでいた『Serenity』というプロジェクトもなかなか身を結ばなかった。そんな彼を一気に復活させたのは、『T R A P S O U L』の大半を録音したというLAのスタジオに出向いたのがきっかけ。初心に帰った彼が音楽制作への喜びを取り戻し、デビュー作発表から5周年の祝福も込めた意欲作が今回の『A N N I V E R S A R Y』だ。
先行シングルとして発表された「Inhale」はメアリー・J. ブライジ「Not Gon’ Cry」とSWV「All Night Long」を同時にサンプリングし、酩酊感あふれるループはブライソンの真骨頂と言えるサウンドを演出。元ネタの2曲は、ベイビーフェイスが手掛けたR&Bサウンドトラックの名盤『Waiting To Exhale』(1995年作、邦題は『ため息つかせて』)に収録されており、それにちなんだタイトルをつけているのもニクい仕掛けだ。また、過去にブライソンを自身のレーベルに誘っていたドレイクとは、Nineteen85がプロデュースの「Outta Time」で念願の共演。TR-808の音色が効いたバウンシーな1曲に仕上がった。ほかにもピーター・アレン「One Step Over The Borderline」を使用し、AORを現行ビートに落とし込んだ「Sorrows」や、オーストラリアのエレクトロニックデュオ、Flight Facilities「Heart Attack (Snakehips Remix)」を用いた「Next To You」など、サンプリングの手法ひとつ取ってもセンスが光る楽曲が並んでいる。
制作途中である前述の『Serenity』は3部作に分かれたプロジェクトで、R&B〜ヒップホップ〜ポップスの境界線を無くした自由な作品になっているとのこと。トラップソウルを生み出した立役者が、2020年代にどんな音楽を生み出していくのか、そちらの進行も楽しみだ。
■Yacheemi
ダンサー / DJ / ライター / タコ神様。
国内~ジャマイカでダンスバトルでの入賞を経験後、 ヒップホップ・グループ「餓鬼レンジャー」 にマスコットとして加入。3密のナイトクラブを中心に年間100本近くのステージに立つ傍らで、地上波TVにも幾度か出演。またR&B音楽にまつわる座学や執筆活動も行うなど、独自のフリースタイル・グルーヴ道を歩む七変化系男子。