クロイ×ハリー、ジョン・レジェンド、テヤナ・テイラー……クリエイティビティにあふれた新譜R&B5作
・Chloe × Halle 『Ungodly Hour』
・John Legend 『Bigger Love』
・Teyana Taylor 『The Album』
・August Alsina『The Product Ⅲ : State of Emergency』
・Ro James『Mantic』
混沌が渦巻く2020年。毎日あふれる情報を汲みとり続けると心身が疲弊するし、これを機に外の世界との距離感を考え直した人も少なくないはず。
今回の記事で取り上げているテヤナ・テイラーも「クアランティン(自宅隔離)期間が、普段よりもさらに制作を楽しませてくれた」と語っていたり、アーティストとしては強制的に立ち止まったことで、よりクリエイティブな環境に身を置けたという一面も事実だろう。
時流を読んだり狙ったりするのも必要だけど、それ以上に自分と正直に向き合うことの大切さに気づかせてくれる、そんな三者三様のR&B作品をご紹介します。
ビヨンセも惚れ込むインディペンデントな姉妹デュオ、大躍進の2作目!
Chloe × Halle 『Ungodly Hour』
YouTubeのカバー動画がきっかけとなりビヨンセのレーベル<Parkwood Entertainment>と契約したアトランタの姉妹デュオ、クロイ×ハリー。
2018年のデビュー作『The Kids Are Alright』ではほぼ全ての楽曲を自作し、『第61回グラミー賞』の最優秀新人賞にもノミネート。姉のクロイ・ベイリーは子役としての活動経歴があったり、妹のハリー・ベイリーは昨年に実写版映画『リトル・マーメイド』のアリエル役に抜擢されるなど、その才能は溢れて止まらない。
2年ぶりとなる新作アルバム『Ungodly Hour』ではホームスタジオでの制作環境を保ちつつ、外部プロデューサーともコラボレーションを敢行。デビュー時から確立済みだった壮大な音楽像にダンサブルな要素が加わって、グッと親しみやすいサウンドになった。
それが最もわかりやすく表れているのはスコット・ストーチがプロデュースした先行シングル「Do It」で、シンガーのヴィクトリア・モネイもペンを交えたメロディが新鮮さと懐かしさを同居させた激キャッチーな仕上がりに。可愛らしいサビの振付はTikTokでも人気となり、姉妹にとっては初となる全米シングルチャート“Billboard Hot 100”へチャートインを果たした。(アリーヤ「Try Again」を思い出すMVのステージセットも最高!)
またスコット・ストーチは「Lonely」でも見事に姉妹のハーモニーを生かすことに成功し、ほかにもマイク・ウィル・メイド・イットや、Tuxedoでの活動も人気のジェイク・ワンら敏腕プロデューサーたちが、作品に新しい風を吹き込んでいる。「良いときだけじゃなく、悪いときの私も愛してほしい」と歌う「Ungodly Hour」はDisclosureが制作、同じく姉妹デュオとして支持を集めるVanjessを思わせる、極上のサマーチューンだ。
アルバムのリリース後も『BET AWARDS 20』『Global Goal : Unite for Our Future』など、立て続けにビッグイベント(どちらも配信での開催)でパフォーマンスを披露した彼女たちは、それぞれに異なるアレンジと演出をほどこし、ビジュアル面でも楽曲の魅力を倍増させた。なんとメイクアップや振付なども自分たちで行なうというセルフプロデュースの徹底っぷり。そう、彼女たちは然るべくしてビヨンセが惚れ込んだ、生粋のインディペンデントウーマンなのだ。
超豪華ゲスト陣と作り上げた、カラフルな喜びと愛に満ちた傑作!
John Legend 『Bigger Love』
チャリティコンサート『One World : Together At Home』での仲睦まじい家族の様子や、スウィズ・ビーツとティンバランド主催のバトルシリーズ『Verzuz』でのアリシア・キーズとのセッションが話題を呼んだジョン・レジェンドが、通算7枚目のソロアルバムを発表した。
前作に当たる『A Legendary Christmas』(2018年)でタッグを組んだラファエル・サディークとよっぽどウマが合ったのか、今作でもラファエルがジョンと並びエグゼクティブプロデューサーとして総指揮を担当。(ベース、ギター演奏でも参加、プロデュースも2曲務める。)前作で、「この相性の良さをクリスマス企画だけで終わらすには勿体ない!」 と思っていた身としては、この上なく嬉しい展開だ。
新作は端的に言うと、ジョンのデビュー作が未だに1番だという人と、近年のクロスオーバーな作風が好きな人を同時に喜ばせる傑作。チャーリー・プース、アンダーソン・パーク、ゲイリー・クラーク・Jr.、ジェネイ・アイコ、コーフィー、ラプソディーと、並びだけで目がくらむほどの豪華なゲスト陣もすごいが、幅広いテイストの楽曲をソウルフルなジョンの歌が無理なく繋いでくれる、ポジティブで縁起のいい作品となった。
アルバムのタイトルにもなった「Bigger Love」と「Don’t Walk Away」はレゲエ界ではお馴染みのスティーヴン・マクレガーことDi Genius(父親はフレディー・マクレガー)がプロデュースしたカリビアンフレーバーあふれる楽曲で、クラブヒットも十分狙えそうな出来栄え。DJキャンパーがプロデュースした「I’m Ready」では、マーヴィン・ゲイが乗り移ったかのような切なくもスイートなボーカルを聴かせる。
これまでもThe Rootsとのアルバム『Wake Up!』やコモンとの「Glory」を始め、Black Lives Matterムーブメントがその名を冠す前からブラックコミュニティへのメッセージを積極的に歌に込めてきたジョン。「この世界が平和で愛のある、よりよい場所になるように自分の歌と成功を用いたい。」と、弱冠15歳のときにエッセイとして綴ったという彼の歌には、確固たる信念にもとづいた優しさがある。今を生きるのに必要としたい、アートワーク同様のカラフルな喜びと願いが満ちた作品だ。