ザ・ウィークエンド、ジェネイ・アイコ……部屋でじっくりと向き合いながら聴きたいR&B作品をピックアップ

・The Weeknd『After Hours』
・Jhene Aiko『Chilombo』
・John Legend「Actions」
・Dru Hill「What You Need」

 部屋でじっくりと聴く音楽として“R&Bがピッタリ”だということを、Instagramでのチャレンジ企画やプロデューサー同士のオンラインバトルを例に挙げて先日お伝えしたが(「#Challenge」企画、プロデューサー同士のオンラインバトル……自宅でも楽しめるUSのR&Bムーブメント)、今回紹介するのは、まさにそんな時間に真正面から向き合って効能を感じたい作品たち。

 The Weekndが全身全霊をかけて奮闘する己との葛藤劇に身を投じるも良し、静かな空間でジェネイ・アイコとともにセルフラブを見出すも良し、普段はすれ違いの生活が多い身近な人への愛をジョン・レジェンドとドゥルー・ヒルに手助けしてもらうのも、もちろん良しだ。そこにはきっと、おだやかではない世相だからこそ響くメッセージがたくさん詰まっているはず。毎度繰り返すようだが、R&Bは幻想的なようでとても実用的な、生活と隣り合わせの音楽なのだ。

映画さながらのサスペンス・ラブストーリーに引き込まれる超大作!
The Weeknd『After Hours』

The Weeknd『After Hours』

 赤いジャケットを羽織り、顔面に血痕……不気味に笑う狂気の男がラスベガスで過ごした一夜の悪夢。The Weekndの新作アルバム『After Hours』は、そんなコピーが似合うドラマチックなビジュアルも相まって話題沸騰中。全米アルバムチャートでは3週目の首位をキープし、欧州をはじめとした7カ国でもトップを飾る快挙ぶりだ。(4月18日現在)

 第1弾先行シングルとして発表された「Heartless」で描かれたのは、スターダム生活の中で名声と誘惑に溺れ、大切な女性と自分の心を失ってしまう主人公。この曲がThe Weekndことエイベル・テスファイ自身と、つかず離れずの彼女ベラ・ハディットの関係を示唆しているのは明らかだが、アルバムでは揺れ動く男の心情がさらに壮大に展開されていく。極めてパーソナルな内容なのに、キャラクターめいた主人公を介することでフィクションとノンフィクションの間を行き来し、気がつけば自分も映画さながらのサスペンスラブストーリーの中へどっぷりと入ってしまう。聴く側を巻き込んでいくのは、そういう仕組みかもしれない。ショートムービー仕立てのMV群にインスパイアを与えたのは、ジャック・ニコルソンが主演を務めた犯罪映画の金字塔『Chinatown』 (鼻につけられた絆創膏)や、サイコスリラー『Jacob’s Ladder』(地下鉄の描写)など。もちろん、マーティン・スコセッシが監督した1985年の同名作『After Hours』も、この奇妙な夜の演出に一役買っているようだ。

 と、ついビジュアルの面ばかりに気が向いてしまうが、それらを際立たせているのは主役の音楽あってこそ。サウンド面でのポイントはやはり、a-ha「Take On Me」を換骨奪胎した「Blinding Lights」に代表される、80年代のシンセポップ/ニューウェイヴの影響だろう。最新シングル「In Your Eyes」で特徴的なサックスソロも当初は存在していなかったそうだが、Roxy Musicやダリル・ホールとジョン・オーツによるHall&Oatesなど、その黄金期を彩ったアーティストたちをお手本にして完成までたどり着いたという。それでも単なるレトロ感覚に終始しないのが“ザ・ウィークエンドサウンド”の真骨頂で、ドラムンベース調のトラックにマックス・マーティン(近年ではアリアナ・グランデやテイラー・スウィフトらを手がけている超売れっ子ソングライター。全米チャート1位獲得曲数は歴代3位)らしいポップなメロディが絡む「Hardest To Love」など、新旧のミクスチャー感覚はデビュー時から変わらず抜群。またR&B好きには、表題曲にマリオ・ワイナンズの名前がクレジットされているのも予想外で嬉しいトピックだ。

 アルバムタイトルの主な由来を“すべての曲が、長い1日をくぐり抜けた後の感情や想いで書かれたものだから。夜中の3時〜5時くらいのね”と語るThe Weeknd(参照:VARIETY)。愛と誘惑を巡って、血が出なくなるまで(=「Until I Bleed Out」)あらゆるエモーションを駆け巡った主人公が「もうこれ以上(過去の生活は)必要ないんだ…」と自分に繰り返しながら物語はエンディングへ。悪夢をくぐり抜けた先に何が見えるかは、僕ら次第ということか。世界と自分のカルマをリンクさせたりしながら、何度も噛み締めたい大作の誕生だ。

The Weeknd – Blinding Lights
The Weeknd – Until I Bleed Out (Official Video)

癒しと女性の強さが同居したメディテーションソウル
Jhene Aiko『Chilombo』

Jhene Aiko『Chilombo』

 アフリカの言葉で「野生の獣」を意味するジェネイ・アイコのミドルネームをタイトルに冠した3rdアルバム。「Chilombo」の名を家系に取り入れたアイコの父親、ドクター・チルことカラモ・チロンボとも本作で3度目の共演を果たし、録音は曽祖母が住んでいたハワイで全編録音、と彼女のルーツと向き合った環境で作り上げられた作品だ。Fワード満載に怒りの銃口を向ける「Triggered (freestyle)」、実生活ではヨリを戻したビッグ・ショーンと緊迫のかけ合いを見せる「None of Your Concern」、不健康な関係を終わらせて本来の自信を取り戻すH.E.R.とのデュエット「B.S.」など、序盤はヒリヒリした内容の楽曲が並ぶが、その先の目線はいたって前向き。「本当の人生みたいな浮き沈みの流れがたくさんある」と本人が語るように、アルバムは進むにつれ風通しがよくなり、彼女の持ち味でもある癒しの世界へ誘われていく。

 中盤の肝ともいえるトリッピーな「Tryna Smoke feat.MicahFoneCheck)」から、時間の尊さを訴える内容でナズを迎えた楽曲「10k Hours」までの一連の流れも実に美しく(ナズのバースも最高!)、「作品を出すごとに自分らしくなっていく」という彼女の自信あふれる歌声は、聴く側の背中を後押ししてくれる力強さも兼ね備えている。

 前回のキュレーション記事でも取り上げた通り、(参考:ジェネイ・アイコ、チャーリー・ウィルソン、K・ミシェル……愛に溢れたR&Bの話題作をピックアップ)昨年は瞑想用の楽曲も録音していた彼女だが、本作でも全曲にシンギングボウル(チベット仏教が発祥の楽器。ヒーリングやセラピーにも用いられる)の音を採用。それぞれの楽曲で呼応するチャクラの場所をまとめた図が、彼女のInstagramにも投稿されている。嫌なニュースばかりに囲まれ耳を塞ぎたくなる今、アイコのメディテーションソウルはきっとあなたの心の平穏を保ってくれるはずだ。

Jhené Aiko – Happiness Over Everything (H.O.E.) ft. Future, Miguel
Jhené Aiko – 10k Hours (Audio) ft. Nas

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