BLACKPINKやジャスティン・ビーバーも ポップシーンに増えつつある“アルバム×ドキュメンタリー”のセット戦略を読む
ドキュメンタリー≒「アーティストが提供する答え」という構図
近年の音楽ドキュメンタリー作品においては、アルバム『ASTROWORLD』のツアー終了後に発表されたトラヴィス・スコットの『Look Mom I Can Fly』(2019年)や、アルバム『Lover』のプロモーションが一区切りを迎えたタイミングで公開されたテイラー・スウィフトの『ミス・アメリカーナ』(2020年)などのように、「あるタームにおける一つの区切り」として発表される作品が多かった。すでに何度も聴き込んできた作品がどのようにして制作されたのか、あの時の発言の背景にはどのようなことが起きていたのか、激動の日々の中でミュージシャン本人はどんな風に過ごしていたのか、といった具合に、ある種の総括、もしくは答え合わせとしてドキュメンタリーが存在していた。前述の例も、決して斬新なアイディアというわけではなく、その順番が変わったというだけと考えることも出来る。これまで「より理解を深める」ために存在していたドキュメンタリーに、さらに「作品への期待を高める」という役目も追加されたのである。
ただ、あえてこの現状に厳しい見方をするならば、「アルバムやミュージシャンの印象が良くなるように作られた作品」と言うことも出来るだろう。基本的にこれらのドキュメンタリー作品はアーティスト側で制作されるため、必然的にその内容もアーティスト側でコントロールされた内容となる。インタビューに登場するのはアーティスト本人や周りのスタッフであり、特に第三者や(何かしらの問題を取り扱う際に)相手側の意見が入ることはない。とはいえ、これは別に今に始まった話ではなく、アーティスト側が制作するドキュメンタリーにおける根本的な問題点である。そして、これらの作品はほとんどがファンに向けられたものであり、そこに都合の悪い真実は必要ないのだ。
とはいえ、一人のBLACKPINKのファンとして『BLACKPINK~ライトアップ・ザ・スカイ~』を鑑賞して、その内容を楽しみながらも、一点だけ不安に感じる箇所があったのも正直なところである。あくまで同作は不安や悩みといったネガティブな感情について、「すでに解決したもの」として扱い、非常にポジティブな終わり方をしている。一方で、K-POPにある程度触れている人々であれば、この業界におけるメンタルヘルスが非常に深刻な問題となっていることはご存知の通りだろう。まったくもって余計なお世話なのはわかっているのだが、本作を鑑賞するにあたって、何かしらの対策が行われている様子や、スタッフを含めて向き合う姿を見て安心したいという気持ちを少なからず抱えていたのだが、その感情は観終わっても変わらないままだった。もちろん、映像に映っている通り、メンバーが本当に大丈夫ならそれでまったく問題ないのだが、結果として「これを本当に信じていいのか?」と思ってしまっている自分がいる。だが、仮にその様子が収録されていたとしたら、それはそれで物議を醸すことになるのもわかっている。あくまで、今必要なのは都合の良い真実なのだから。なので、今はその感情は脇に置いた上で、シンプルにこの「ドキュメンタリー」を楽しんでいる。
■ノイ村
普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura