BLACKPINKやジャスティン・ビーバーも ポップシーンに増えつつある“アルバム×ドキュメンタリー”のセット戦略を読む

 音楽ドキュメンタリーは「この時、ミュージシャン本人はどんなことを考えていたのだろう? どんな風に作品を作っていたんだろう? 裏側では何が起きていたんだろう?」という疑問を解決してくれる存在である。それを見ることで、そのミュージシャンのファンはより深く作品や、ミュージシャン自身を理解することが出来るようになるのだ。このような”利点”を活かし、近年のポップシーンではドキュメンタリーを一つの手段として活用する例が増えている。

アルバムとドキュメンタリーで「入門用セット」を作り上げたBLACKPINK

BLACKPINK『THE ALBUM』

 10月2日にリリースした待望の1stアルバム『THE ALBUM』がビルボード全米アルバムチャート初登場2位という大成功を収めたBLACKPINKは、リリースから間もない10月14日というタイミングでドキュメンタリー映画『BLACKPINK~ライトアップ・ザ・スカイ~』をNetflixで公開した。メンバーの幼少期から現在の世界的成功に至るまで、4人が経験してきた出来事やその時々で感じたことについて、プロデューサーのTEDDY氏やメンバー自身が振り返るインタビューをメインに構成した本作は、グループの魅力でもあるメンバー間の仲睦まじい様子も沢山収められており、BLACKPINKのファンなら間違いなく楽しめる内容に仕上がっている。

『BLACKPINK ~ライトアップ・ザ・スカイ~』予告編 – Netflix

 一方で、本作はBLACKPINKやK-POPのファンならすでに知っている人も多いであろう過酷な練習生システムの説明や、途中で織り交ぜられる「そもそもK-POPとは何か?」という疑問、ファンの声を通して語られる「BLACKPINKが魅力的である理由」なども収められており、本作が、最近のシングル群やアルバムを通してBLACKPINKに関心を抱いた人、あるいはこの現象をきっかけにK-POP自体に関心を抱いた人が手に取る可能性が高いことを見越して制作されていることがわかる。同じく入り口として機能する『THE ALBUM』と合わせて、アルバムとドキュメンタリーという組み合わせでBLACKPINK、あるいはK-POPの「入門用セット」が構築されているのである。

 また、主要な構成要素の一つとしてアルバムのレコーディング風景を収めた本作は、『THE ALBUM』自体の理解を深めるための存在でもある。これから録音する作品について、あるいは音楽自体についてメンバーやスタッフがどのように真剣に向き合っているのかが熱心に語られ、特にTEDDY氏の「今は個人的な物語を語る時」という言葉は、よりパーソナルになった歌詞が印象的な本作の特徴を表していると言えるだろう(関連記事)。また、人気に対するプレッシャーや超多忙なスケジュールで自己を見失ってしまうという苦しみを率直に語るパートからの、大きな転換点となった『コーチェラ・フェスティバル』の出演を経て「これこそが私の人生に望むもの」(LISA)と今の自分を力強く肯定するラストパートのドラマティックな展開は、アルバムのクライマックスを飾る「You Never Know」のテーマと強く共振する。本作を鑑賞することで、『THE ALBUM』をより深く楽しむことが出来るはずだ。ファンにとっても、アルバムとこのドキュメンタリーは一つのセットとなっているのである。

BLACKPINK『THE ALBUM』

アルバムを補完するための、「プロモーション」としてのドキュメンタリー

 このように、アルバムを最大限に盛り上げるために、ある種のプロモーションとしてドキュメンタリーが制作されるというのが、近年のポップシーンにおける一つの傾向でもある。

 例えば、2020年2月にジャスティン・ビーバーが新作となるアルバム『Changes』をリリースした際には、その数週間ほど前からYouTube Originalで『ジャスティン・ビーバー: シーズンズ』というドキュメンタリー番組を配信していた。全10エピソードから成る本シリーズでは、ジャスティン本人や妻のヘイリー・ビーバー、周囲のスタッフへのインタビューを中心に、前作『Purpose』のワールドツアーの突然の中止から活動再開に至るまでの経緯、ヘイリーとの婚約、自身が抱えるメンタルヘルスや病気との闘い、そして何より大事にしている音楽へ取り組む真剣な姿を余すところなく映像化し、「どのようにして『Changes』を作ったか」を解明している。正直なところ、これさえ見れば大半のインタビューは必要なくなってしまうのではないかというほど充実した内容だ。それを証明するように第一話の再生回数は本稿執筆時点で約6,700万回以上という数字を叩き出しており、ジャスティンのファンの多くが本シリーズを鑑賞していることを実感することが出来る。

スポットライトから離れて – ジャスティン・ビーバー: シーズンズ

 そして、『Changes』で歌われる内容は、やはり本シリーズと非常にリンクしたものとなっている。もちろん、アルバム単体でも十分楽しむことが出来るが、本シリーズを通して、ここまで辿り着く上でどれほど彼が苦悩の道を歩んだか、いかにヘイリーの存在が重要であるかを知った上で『Changes』を聴くと、より深く本作に感情移入することが出来るだろう。そもそもこのドキュメンタリーを見終える頃には、間違いなく『Changes』を聴きたくなっているはずだ。ジャスティン自ら、本作にどれほどの想いを込めたかを語っているのだから。

ジャスティン・ビーバー『Changes』

 また、12月4日に新作『Wonder』のリリースを控えるショーン・メンデスも、本作のプロモーション期間となる11月23日というタイミングでNetflix独占でドキュメンタリー映画『ショーン・メンデス: ありのままの魅力』の公開を予定している。

 本稿執筆時点ではまだトレーラー映像しか確認できていないが、やはり本作も前作以降のワールドツアーの様子や、恋人とされるカミラ・カベロとの日々を映しながら、ミュージシャンとして、あるいは一人の人間として成長する姿を描く内容となっているようで、そんなショーンの今の姿が収められた『Wonder』への期待を高める作品となっているのはまず間違いないだろう。

 BLACKPINK、ジャスティン・ビーバー、ショーン・メンデスのドキュメンタリーに共通するのは、「今の姿」を描くアルバムに対して、これまでに経験してきたことや考えてきたこと、成長する様子といった「そこに至るまでの背景」をドキュメンタリーで補完しているということである。そして、それは歌詞が一行ずつGenius上で「これはあの時の出来事が反映されていて……」と分析され、インタビューの一言がニュースのヘッドラインを飾って解説されるような現代のポップシーンにおいて、非常に需要を満たした在り方だと言えるだろう。これまで詳しくミュージシャンについて知らなかった人は、ミュージシャンにより関心を持つようになるし、ファンであればより深く作品に入り込めるようになる。ほぼデメリットのない仕組みだ。

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