映画『TENET テネット』音楽手がけた、ルドウィグ・ゴランソンとは何者か 刺激的な制作秘話やヒップホップシーンとの繋がり

「この音楽を作曲する上での私のゴールの一つは、エモーショナルなロードマップにアンダーラインを引き、観客を壮大なアドベンチャーに没頭させることでした。だから私はこの映画を見るたび、シネマティックなジェットコースターをただ座って体験することができるような気がします」
(ルドウィグ・ゴランソン/参照:NME

『TENET (Original Motion Picture Soundtrack)』

 クリストファー・ノーラン監督による最新作『TENET テネット』が、累計では動員124万人、興収20億円を突破する大ヒットを記録している。『インセプション』や『インターステラー』など、これまでも先鋭的かつ刺激的な作品を数多く手掛けてきた鬼才のキャリアの中でもダントツの難易度で、一度見ただけで全貌を理解できる人はおそらくほとんどいないだろう。それでもおよそ2時間半、全く飽きることなく作品の世界に没入できるのは、その革新的な映像と共にスクリーンから鳴り響くルドウィグ・ゴランソンによるサウンドトラックの力がとても大きい。マーベルの『ブラックパンサー』やルーカスフィルムの実写テレビシリーズ『マンダロリアン』などで数々の賞を受賞してきたゴランソン。ノーラン監督作の常連であるハンス・ジマーがドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作『DUNE/デューン 砂の惑星』にかかりっきりとなり、本作の依頼を断ると知るや否やその座を勝ち取った彼は、不穏なサウンドスケープの中に、一体どのような“仕掛け”を散りばめたのだろうか。

映画『TENET テネット』スペシャル予告

 1984年9月1日、スウェーデンのリンシェーピングに生まれたルドウィグ・ゴランソンは、幼少期から音楽のレッスンを受け、高校時代にはプロの交響楽団のためにスコアを書く機会にも恵まれた。自分の書いた譜面が実際の「音」となり、コンサートホールに響き渡るのを聴いた時に、人生が変わるほどの興奮を覚えたという。その後、ストックホルムの音楽大学を卒業した彼は、2007年にロサンゼルスへ移住しアメリカ屈指の名門校である南カリフォルニア大学で劇伴を学ぶ。そこで出会ったライアン・クーグラーと、後に『フルートベール駅で』『クリード チャンプを継ぐ男』『ブラックパンサー』でタッグを組み、彼の名を世に知らしめることとなる。

『フルートベール駅で』予告編
映画『クリード チャンプを継ぐ男』予告編
マーベル新ヒーロー!『ブラックパンサー』日本版本予告編

 ゴランソンのサウンドトラックは、その徹底したフィールドワークや綿密な準備によって、どの作品でも核となる世界観と密接に結びついた極めて重要な位置を占めている。例えば、『クリード チャンプを継ぐ男』を手掛けた時には、ボクシングジムで2日間ボクサーと過ごし、縄跳びやスパーリングなどのトレーニングから生じるサウンドやビートを全て録音、スタジオに持ち帰って楽曲に落とし込んでいったという。また、『ブラックパンサー』ではアフリカ文化を自身に取り込むため、現地に渡ってミュージシャンたちと旅をし、Talking Headsのパフォーマンスやグリオ(西アフリカの伝統伝達者)の演奏からインスパイアされ、それを壮大なオーケストラに組み込んでいった。

「私はすべてのプロジェクトにおいて、こうした独自のサウンドスケープ作りを行います」
(ルドウィグ・ゴランソン/参照:Bang & Olufsen

 そんなゴランソンにとっても『TENET テネット』のサウンドトラックは、これまでに手がけたどのプロジェクトとも違うものだったという。主人公「名も無き男」を演じるジョン・デヴィッド・ワシントンが、逆行する世界で水たまりを踏むシーンを見た瞬間、これまで彼が培ってきた典型的なノウハウは一切通用しないと悟ったのだった。

「彼が水たまりに足を踏み入れる前に、その水が彼の靴に向かって持ち上がっていくイメージは衝撃的でした。あの映像と同じような音楽を作りたいと思ったのです」
(ルドウィグ・ゴランソン/参照:NME

 実際の作業は、『TENET テネット』の撮影が始まるおよそ半年前から始まった。最初は週に1度、クリストファー・ノーランとミーティングを重ねながらデモトラックを制作。ノーランのオフィスでそれを流しながら、映像に合うサウンド、合わないサウンドを取捨選択していったという。通常、撮影の準備段階では既存の楽曲を映像に「仮」で当て込み、「こんなイメージの楽曲を」といった具合に作曲家へオファーをかけるものだが、ノーランはそれを嫌い、常に最初の段階からオリジナル曲を使うという。そうすることで、ストーリーと映像と音楽が完全に合致した世界観を構築できるからだ。

 撮影が始まってからもノーランと密に連絡を取り合い、撮影を終えたノーランがジェニファー・レイム(『マリッジ・ストーリー』『ヘレディタリー / 継承』)と編集作業に取り掛かると、毎週金曜日には必ず作品を通して鑑賞したというゴランソン。実際のレコーディングに入るまでに50回はリピートし、映画のストーリーと登場人物について完全に把握したというから驚きだ(参照:THE RIVER)。

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる