ポケモンから、はじめしゃちょーまで……非凡な岡崎体育のプロデュース力を“着眼点”と“家族”のキーワードから探る
YouTuber・はじめしゃちょーのデビュー曲「動画作る人あるあるソング」や、12月公開の映画『劇場版ポケットモンスター ココ』のテーマソング全6曲など、プロデューサーとしても手腕を発揮しているミュージシャン、岡崎体育。
岡崎体育といえば、もともとは京都を拠点に活動し、「盆地テクノ(BASIN TECHNO)」を自称した高クオリティな楽曲で好評を集め、邦楽ロックのミュージックビデオにありがちな場面や演出をパロッたMV「MUSIC VIDEO」(2016年)で全国区へと駆け上がったミュージシャン。Twitterのフォロワー数は56万人を超えており、近年の投稿はバズるのが当たり前の状況。2016年1月7日の「冷蔵庫に貼ってあったメモ書きを英語風に読んでみた」というツイートなどがこれまで拡散されてきた。
幅広い層から親しまれている岡崎だが、ずっと裏方志向があったようで、2017年6月発売の雑誌『QUICK JAPAN VOL.132』での鬼龍院翔(ゴールデンボンバー)との対談でも、「裏方に回りたいんです。アイドルに楽曲提供したり、プロデュースするほうに回りたいと昔から思ってました」と語っている。
また、雑誌『anan』の連載でもこれまで何度かプロデュース論を展開。2020年7月15日発売号では、BTSを話題にあげ、「自分がアイドルやダンスユニットなどをプロデュースするとしたら、何人組がいいのだろうか」などと記述。メンバーの人数は割り切れる数が良いのではないかということ、個々の魅力を広げるためにはバラエティ番組出演が必須であること、グループにセンターは必要ないけどリーダーは決めておきたいことなど、アイデアを膨らませている。
岡崎体育の魅力は、引き出しが多彩であるがゆえ、一括りでは彼のことを語れない部分である。それでもあえて今回のプロデュースワークから岡崎のキーワードを挙げるなら、それは「着眼点」と「家族」である。
研究して作り出される「あるあるネタ曲」
岡崎楽曲のヒット作で真っ先に浮かぶのは、「あるあるネタ」を歌詞やサウンドに散りばめた作品群だ。今回プロデュースした、はじめしゃちょーの曲「動画作る人あるあるソング」もその流れの1曲。カメラ前ではリアクションは派手だけど編集作業時は無口なことや、何かを1キロ食べてみたという定番企画のことなど、YouTuberをはじめとする動画クリエイターにとって、思い当たる節が満載。逆に、動画を作らない人であっても、「分かる気がする」とどこか納得できる。岡崎の「あるあるネタ曲」の良さは、当事者以外も巻き込んで共感させられる点だ。
お笑いの芸でも然り、こういった「あるあるネタ」で重要なのは、目のつけどころの良さである。岡崎は、当たり前になり過ぎて全員がスルーしがちな出来事も逃さずにツッコミを入れ、さらに誰も気づかないような物事にも光を当てる。
ミュージックビデオでよく見る光景について歌った「MUSIC VIDEO」。どこか聞き覚えがあるラウドロックのメロディに、これまた身に覚えがあるような歌詞を乗せて岡崎が激しく歌いあげながら、一方「こんな歌詞でもノレる?」と言わんばかりに気の抜けたワードをサビに持ってくる「感情のピクセル」(2017年)。いずれも、ネタ元をよく見聞きし、その構造を深く研究している。
「Explain」(2016年)は、曲の構造解説をそのまま歌詞にしているところに驚きがあった。〈ここがAメロ〉〈突然のRap こういうRapの部分は2番のBメロ終わりにありがち〉といったメタ表現の言葉が並ぶ。加えて、口パクに関する批評的な視点があり、サビの歌唱パートでは水を飲んで、同曲が口パクであることをカミングアウト。2017年9月8日放送の『ミュージックステーション ウルトラFES2017』(テレビ朝日系)で披露した際、このパフォーマンスは大きな話題となった。
ちなみに「Explain」の口パクカミングアウトは、椎名林檎が『Mステ』に出演した際、マネキンを配置して楽器が当て振りであることをアピールした演奏や、はたまた『COUNT DOWN TV』(TBS系)におけるDragon Ashやザ・クロマニヨンズの口パクパフォーマンスへの岡崎なりのアンサーではないか……と誇大妄想したくなる。それくらい岡崎の曲は深い。