欅坂46、快進撃を生んだ楽曲の数々ーー「サイマジョ」から「誰がその鐘を鳴らすのか?」までシングル曲を全解説
結成から5年の歩みを経て、櫻坂46へ改名することが発表された欅坂46。これまでの快進撃を生んだ理由のひとつは、紛れもなく楽曲の力だろう。発表するごとに話題となってきた彼女たちの音楽。これを機に「欅坂46」時代のシングル曲を振り返ってみたい。
「サイレントマジョリティー」
アイドルソングとしては珍しく政治的な領域にも踏み込んだ歌詞や、モーセが海を割った旧約聖書のエピソードをモチーフにしたという振り付け、渋谷駅前の再開発地帯で撮ったMVなど、絶大なインパクトを残したデビューシングル。“欅坂”期を象徴する大人たちへの反抗の歌だ。忘れられがちなのが、この曲がファッションレンタルアプリ「メチャカリ」のCMソングとして制作されたという点である。それゆえ「明るい曲で」というオーダーがあったため、この曲で通せたときにプロデューサーの秋元康は達成感を感じたという。
「世界には愛しかない」
前作から一転して爽快感あふれる2ndシングル。ポエトリーリーディングを取り入れ演劇的な要素を盛り込んだことで、メンバーたちのパフォーマンス面が前作以上に強く押し出されている。〈夕立も予測できない未来も嫌いじゃない〉と高らかに宣言する姿には、未来へと向かうポジティブなエネルギーで満ちている。北海道の大草原で撮影したMVには、ずっと雨が降っていたのが翌日になって一気に晴れて青空が撮れたという奇跡的なエピソードも。急速に”坂道”を駆け上がっていく彼女たちの一瞬の輝きをキャッチした一曲だ。
「二人セゾン」
2016年11月リリースの3作目。セゾン=フランス語で”季節”を表すタイトル通り、歌詞には過ぎていく時の流れへの意識がある。そしてこの曲における最も重要なメッセージは、未来への想像力だ。〈花のない桜を見上げて 満開の日を想ったことはあったか?〉というフレーズには、春に満開になる桜の美しさを秋や冬でも待ち続けることができるのか、転じて、たとえ苦しい状況に置かれていたとしても明るい未来を夢見ようという、前向きな姿勢が表れている。“けやき”から“さくら”になる彼女たち。両手をひらひらと揺らすしなやかなバレエ調のダンスは、風に舞う桜の花びらを想像させる。
「不協和音」
「サイレントマジョリティー」からちょうど1年後に発表された4thシングル。〈Yesでいいのか?〉に対しての〈僕はYesと言わない〉、〈No!と言いなよ!〉に対しての〈僕は嫌だ〉……ある意味で、デビューからの1年間で変貌を遂げた同グループのその“成長”を象徴する一曲だ。MVの撮影地は横浜の山下埠頭。荒廃した土地で立ち上がった少女が戦うように踊る様子は鬼気迫るものがある。体力的にも精神的にも消耗が激しく、ファンからは“魔曲”と恐れられているため、ライブでこの曲のイントロがかかると会場の空気が一変する。
「風に吹かれても」
シライシ紗トリが楽曲提供した、黒スーツスタイルの5thシングル。グルーヴィーなサウンドにファンキーなリズム、「トゥルットゥットゥー」と歌うイントロ、足を小刻みにステップさせる軽快なダンスなど、この曲のある種の“気軽さ”や“楽天的”な雰囲気は、デビューから怒涛の期間を過ごしている彼女たちに与えられた小休止的な意味合いがあるのだろう。〈アレコレと考えても/なるようにしかならないし…〉と、それまでのシングル曲の繊細で深みのある歌詞からは一転して楽観的な一曲だ。
「ガラスを割れ!」
〈目の前のガラスを割れ!〉というサビのフレーズの通り、パワフルなロック調のサウンドに力強い歌詞など、ハードボイルドな世界観を持った6作目。MVで描かれているのはカメラに向かって鋭く睨みつける姿や闘争のイメージ。当時、絶対的センターと呼ばれていた平手友梨奈に対して、殻を破れなかった他のメンバーたちの中には、この曲の歌詞を渡されて涙した者もいたという。きっと「いい曲をもらえていただけ」なんて心ない批判もあったことだろう。そんな中で、グループの意識改革のきっかけとなった一曲とも言えるのではないか。
「アンビバレント」
2018年夏にリリースされた7作目。タイトルは“二律背反”を意味し、相反する感情が同居している状態を指す。歌詞では〈一人になりたい なりたくない〉と“集団”と“個”の間で揺らぐ主人公像が描かれる。それに対し、サウンドは軽快かつパワフルなブラスファンク〜ロックを展開。内省的なテーマだが、音や平歌が工夫されているため印象としてはかなり解放的。ライブでも終盤に選曲されることが多く、ラストスパートを盛り上げる一曲として人気だ。