関取花「今をください」で伝える“確かな一瞬”を見逃さない大切さ 喜怒哀楽を素直に表現する“陽だまりのような歌”の魅力

関取花、陽だまりのような歌の魅力

 そんな関取は、以前から『NHK紅白歌合戦』に出ることを目標の一つに掲げている。そして多くのリスナーに届く強固なポップソングでありたいという想いが、より顕著に表れ始めたのがメジャーデビュー以降だ。メジャー1stミニアルバム『逆上がりの向こうがわ』では、リード曲「太陽の君に」のプロデューサーに亀田誠治を迎え、ストリングスとピアノによって関取花史上もっとも華やかな楽曲に仕上がった。開けた印象になった同作への意気込みは、「『どうせだったら全曲、胸を張れる推し曲で固めよう』と思ったんです」(参照:音楽ナタリー)とインタビューでも語られている通りである。

関取花 太陽の君に

 しかし、そうして楽曲がリーチする層が広くなった分、小さな感情の変化や素直な自分の置きどころに悩み、葛藤する瞬間もあったという。すでにインディーズで10年近いキャリアを重ねてきた関取にとって、メジャー2作目というのは確かに難しい課題だっただろう。そんな中、今年の春にリリースされたミニアルバムが『きっと私を待っている』だった。

 「(『逆上がりの向こうがわ』は)みんなに好かれるような曲を作ることを意識しすぎて、自分を置いてきぼりにしちゃってたというか。それに気付いて沈んだときに、どういう状態で売れたら自分も周りもハッピーになれるのか……と考えるようになって、そこからだいぶ気が楽になったんです」(参照:音楽ナタリー)と語られている通り、『きっと私を待っている』は肩の力がスッと抜けた、風通しの良い6曲が並ぶ作品となった。あえて明確な答えやオチを用意することなく、日常の何気ない一瞬にフォーカスし、迷いや曖昧ささえもそのまま音楽にしていくことで、小さな感情の移ろいを見逃さない。関取の観察眼が新しい形で花開いた作品だったと思うし、〈風に身を預けて/新しい未来を 探しに出かけよう〉(「はじまりの時」)と素直に歌えたのは大きな変化だったのではないだろうか。

関取花「はじまりの時」

 そして、本日9月4日に配信リリースされた新曲が「今をください」である。主題歌となった『アンサング・シンデレラ ANOTHER STORY ~新人薬剤師 相原くるみ~』(FOD)は、放送中の『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ系)のスピンオフドラマであり、関取が実際に脚本を読みながら曲を書き下ろしていったのだという。ドラマは、総合病院で働く薬剤師が一人一人の患者と真摯に向き合い、時には壁に直面しながらも、絆を結んでたくましく成長していく物語である。病院の中の時間は時にゆっくりと、時に忙しなくも感じられ、特異な時間軸の中で外の世界と繋がれるのは、病室の窓から見える風景くらいなもの。楽曲の中で歌われる〈ただ黙って空仰いだ 揺れるガラスの瞳に/ああ 忘れないように焼き付けた〉には、そんな病室から見える風景と、目の前にある確かな一瞬だけは見逃さないようにしようという、生きる想いの強さが表れているように感じた。

 さらに続けて、〈奇跡なんて嘘っぽくて あんまり好きじゃないけど/あの時だけわたし 願ったの〉と歌われるが、これは『きっと私を待っている』を作れたからこそ歌えた言葉だろう。曖昧で不確かだとしても、それが自分の感情を揺さぶるものであるならば、積極的に歌にしていこうというのが今の関取のモード。過去を背負い、時に過去に縛られるようにして歌ってきた関取が、奇跡や未来について堂々と歌えるようになったこと自体が、歩んできたキャリアの賜物であると思うのだ。

関取 花「今をください」(アンサング・シンデレラ ANOTHER STORY ~新人薬剤師 相原くるみ~ 主題歌)

 昨今のコロナ禍の影響もあって、我々の生活もますます行く先が分からない状態が続く。しかし、だからこそ自分の中にある正直な想い、ささやかな〈今〉の感情だけは忘れてはならない。そして、人生にはいつか大輪の花が咲くはずだと信じる気持ちを忘れてはならない。「今をください」は多くの人に届きうるドラマ主題歌というだけではなく、「過去を背負いつつも、未来に目を向けられるようになったからこそ今がある」という、関取が歌ってきた軌跡がギュッと凝縮された楽曲なのである。

 迷いも決意も自分の一部として歌い、まだ見ぬ明日へ進んでいくシンガーソングライター、関取花。これから彼女の音楽は何色の花を咲かせるのだろうか。まずは「今をください」をじっくり聴きながら、楽しみに待つことにしよう。

関取花「今をください」

■リリース情報
関取花「今をください」
2020年9月4日(金)配信リリース
『アンサング・シンデレラ ANOTHER STORY ~新人薬剤師 相原くるみ~』(FOD)主題歌
ストリーミング・ダウンロードはこちら

■関連リンク
関取花 オフィシャルHP
関取花 オフィシャルTwitter

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