3rdアルバム『maze』インタビュー(前編)
chelmico×長谷川白紙に聞く、初コラボ曲「ごはんだよ」で表現した“トラウマ” 「今までのリリックとは全く違う」
長谷川白紙が分析する『maze』の“混沌”と“秩序”
ーー実際にリリックはどうやって書いていったのですか?
Mamiko:テーマは決まっていたから、とにかく自分の中のトラウマを思い出して書いていきました。いつもは8小節とか16小節ずつ交互にラップしていくんですけど、それでは書き足りないから一人32小節のラップに初めて挑戦しました。
Rachel:なんか今回は「出てきちゃった」というか。「あんまり、こういうの書かない方がいいかもな」ていう、「しまっておいた方がよかったかもしれない」っていうものが出てきてしまった「怖さ」もありましたね。今までの、「見せたいchelmico」「見せたいRachel」じゃなくて、「そのまま」という感じです。作った感じがあんまりなくて。それがすごく不思議な体験でした。
ーー物語としての辻褄を合わせようとしているところがあまりなくて、お二人の脳内イメージが未整理のまま吐き出されている感じがしますよね。
Rachel:うん、まさにそういう感じ。
Mamiko:私も結構そうでしたね。昔のことを思い出す時ってどんどんイメージが連鎖していくから、走馬灯に近くて。浮かんできたイメージをバーっとノートに書いていったら、辛い思い出もあって「ああ……!」ってなりながら作業していました。でも、私はRachelよりは辛くなかったかな。これまでのリリックも、「見せたい自分」みたいなことをそんなに意識して書いてはこなかったし。自分の今までのスタイルの延長線上で、もっと深いところまで描いてみた感じでしたね。
ーー最初に白紙さんとカウンセリングのような、占いのようなやりとりがあったことと、まさに同じようなことが音の上でも行われていた感じですよね。白紙さんのトラックによって、chelmicoの内面が暴き出されるというか。
Mamiko:ああ、確かに。
ーーあと、“〈ごはんだよ〉というフレーズで2人のラップを繋げていくアイデアは、どうやって思いついたのですか?
長谷川:あ、それは私も気になります。
Rachel:「ごはんだよ」は子供の頃の自分と、今の自分を行き来するような曲だから、子供の頃に聞いた一番強いワードを入れたいよねっていう話になって。かつ、ちょっと怖くも聞こえるワードを使いたかったんです。支配力の強い言葉というか……「ごはんだよ」って、子供にとっては強いワードじゃないですか。一回そこでリセットされる言葉だなと思ったので、ラップの締めくくりに必ず入れてみたんですよね。レコーディングの時も「怖くね!?」って、二人で笑いながらラップしていました。
ーー言われてみれば〈ごはんだよ〉というフレーズが、過去と現在を行き来するときの「トリガー」になっていますよね。白紙さんは、この曲のリリックが上がってきたときにはどう思いました?
長谷川:まず、今までのchelmicoのリリックとは全く違うと思いました。こんなに「つながり」が薄いというか、さっきおっしゃっていたように、ここまで脈絡のないセンテンスの連なりは、これまで聴いたことなかった。もっとリリックを構築していくタイプの方たちだと思っていたので、すごく新鮮でした。そして、chelmicoのこれまでの文脈を度外視したところでも、この「ごはんだよ」は一つの「詞」としてすごくいいなあと思いました。
Mamiko:おお!
長谷川:たまに、そらで読んでいます(笑)。
Rachel:それは嬉しいなあ。
ーー実際のレコーディングは大変でしたか? これまでのトラックに比べると難易度高そうだなと思ったのですが。
Mamiko:私も最初、「これは結構時間がかかるかな」と思ったけど、意外とスムーズにいきましたね。
Rachel:確かにね。なんとなく正解というか、完成形のイメージが自分たちで見えてたから「ここ、どうしよう」「どっちがいいかな」みたいな迷いがほとんどなく、一筆書きのようにラップできたし一番勢いのあるテイクを選んでもらいました。やっている途中で自分でも「あ、このテイクだな」って思えたし。
ーーこの曲が収録された、chelmicoの最新アルバム『maze』については、白紙さんどう思いました?
長谷川:最初に通して聴いたときは、「私の曲だけ毛色が違い過ぎないか?問題」が自分の中で発生しまして(笑)。それって、私が誰かに楽曲提供をするたび起きる問題でもあるんですけど、『maze』に関しては2周目以降はあまり異物感を覚えなくて。むしろそのカオスの辻褄の合わせ方というか、それがすごくchelmicoの文脈に沿っていて素晴らしいなと思いました。私みたいに「全て提出されている」状況としての混沌ではなくて、chelmicoが存在していることと、その周囲にある全てみたいな。そういうカオスの作り方なのだろうなと思ったし、それによって「混沌」でもあり「秩序」でもあり、なんだかいいとこ取りみたいな作品だよなと思いましたね(笑)。
Rachel:白紙さんの感想が気になっていたから、そう言ってもらえて嬉しいな。我々も「ごはんだよ」の「毛色が違いすぎ問題」については懸念してたんですけど(笑)、全然ヘンな感じにはなってなかったと思う。曲順を考えて並べてみたら、すごく必要な曲になっていたし。
長谷川:曲順もすごくいいですよね。
Rachel:うん。今回の作品は曲順が一番うまくいったと言ってもいいのでは? というくらい(笑)。最近サブスクの影響で、アルバムを通して最後まで聴く機会がどんどん少なくなってきていると思うんですけど、『maze』はぜひ最後まで通して聴いてほしいです。
■chelmico リリース情報
3rdアルバム『maze』
2020年8月26日(水)リリース
<形態>
初回限定盤 [CD+DVD] ¥3,500 + 税
通常盤 [CD] ¥2,800 + 税
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■長谷川白紙 リリース情報
『夢の骨が襲いかかる!』
完全生産限定CD
2020年7月8日(水)リリース
¥1,800(+税)
発売元:株式会社ミュージックマイン
販売元:株式会社ウルトラ・ヴァイヴ