Upsammy、Chari Chari、Francois K.……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜10選

Chari Chari『We hear the last decades dreaming』

 日本のアーティストを2組ほどご紹介しましょう。井上薫のプロジェクト、Chari Chariが、なんと18年ぶりのアルバム『We hear the last decades dreaming』を自らのレーベル<Seeds And Ground>からリリース。制作に足かけ6年をかけたという作品は緻密にして解放的、聞き込むのも聞き流すのも、もちろん踊るにも最適なアルバムです。グルーヴィでオーガニックなダンスミュージックであり、リラックスして聴けるイージーリスニングであり、かつ現代音楽やテクノ、アンビエント、ファンク、ニューエイジやラテン、アフロ、各地の民俗音楽まで、さまざまな要素が混合した密度の濃いミクスチャー音楽でもあります。

Seiho『DESTINATION』

 大阪出身の電子音楽家・Seihoの新作『DESTINATION』(The Deep Land of Gray and Red)は、「睡眠障害により眠れない夜を過ごす人々に向けた音楽番組」と銘打ったYouTube番組『DESTINATION 最終目的地 ONE』で公開された音源を集めたアルバムで、ガイダンスのような語りが少し入り、あとはきっかり1時間の曲が4曲入って計4時間という大作です。

 音楽的にはノンビートのたゆたうような電子音がゆったりと循環するアンビエントミュージックで、言葉によるメッセージはもちろん、ドラマティックな展開やポップなメロディなどもすべて排除したアブストラクトで静謐なサウンドは、個人的には読書や原稿執筆など、余計な情報を遮断して何かに集中するときに有効と感じています。

Seiho - DESTINATION 最終目的地 ONE

Francois K.『essential mix』

 最後にとても素敵な音源を。ニューヨークの大御所DJ、Francois K.ことフランソワ・ケヴォーキアンの伝説的なミックスアルバム『essential mix』の復刻盤です。彼のMixcloudフォロワーが1000人を突破した記念として、20年前の2000年にリリースされたこの作品がmixcloud上で聴けるようになりました。

 本作は「このミックスの目的は、人生のほとんどをニューヨークのアンダーグラウンドなクラブで過ごしてきた私の観点から、25年に及ぶダンスミュージックの歴史を表すことでした」というフランソワの言葉通りの内容。オリジナルのCD2枚組をシームレスに繋ぎ直し、2時間半以上のロングセットに仕上げています。ミックスアルバムは楽曲のライセンス契約が切れるとそのまま廃盤になってしまうのが通例なので、これはとても素敵なリイシューなのです。

 ダンスミュージックの至福はすべてここに詰まっている、と言いたいぐらいの最高の内容です。古いソウルやファンク、ディスコ、ジャズ、AORから、ハウス、テクノ、レゲエ、ヒップホップまで、さまざまなジャンルや国境や民族や年代を超えた音楽が“ダンスミュージック”というキーワードで繋がっていく。彼が青春を過ごした80年代〜90年代のニューヨークのクラブの雰囲気も、そこから感じ取れるはず。私にとっても、生涯もっとも大切な愛聴盤のひとつでした。未体験の方も、もう持ってるよ、さんざん聴いてるよ、という方も、ぜひぜひご一聴を。きっと新たな発見があるはず。

 ではまた次回。

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

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