シングル『new world』インタビュー
THIS IS JAPANが明かす、新曲「new world」に昇華した“バンドの楽しさ”「自分らしさを思い切って出せた気持ちよさがある」
今年2月、「Not Youth But You」をKi/oon Musicより配信リリースしたTHIS IS JAPAN。その後も配信曲はあったが、ようやくCDで届くメジャー第1弾シングルが『new world』である。TVアニメ『ノー・ガンズ・ライフ』(TBS系)第2期エンディングテーマとなるこの曲は、ハードボイルドなのにキャッチー、男臭いけれど妙にコミカルという、THIS IS JAPANの多面性をフルに活かした新境地となっている。リアルサウンドでは2018年の『FROM ALTERNATIVE』から彼らを追いかけているが、今の4人は一番のびのびとバンドを楽しんでいるように見える。現状と今後の展望について、メンバー全員に話を聞いた。(石井恵梨子)
「メジャーに行くなら行くで、このままTHIS IS JAPANをやるだけ」
一一今回はメジャーからの1stシングル。みなさんの世代って無邪気にメジャーに憧れたりデビューを目指す感覚があまりない印象もあるんですが、実際はどうなんでしょうか。
杉森ジャック(以下、杉森):そうですね、確かに。やっぱりインディーズ出身のまま、いろんな人の目や耳に触れていくバンドもたくさん見てきたんで。メジャーに行って全部上手くいくとは当然思ってない世代だとは思います。
小山祐樹(以下、小山):まさかそんなことにはならない、っていうところから始まってるので。もちろん高校生でバンド始めた頃は、めちゃくちゃ先のこととしてなんとなく夢見てたところもありますけど。
水元太郎(以下、水元):でもいざ話が来たら、びっくり、のほうが大きかったですね。もともと「絶対メジャーデビューしてやるぞ」と思ってここまで来たわけでもないし。地道に進んできた先に、まぁ誰かが「通過点」って言ってたけど、途中にメジャーデビューっていう門があった感じで。
一一その門をみんなでくぐろうじゃないか、と思えた決定打は?
かわむら:うーん......我々も「メジャーに行くのが一番カッコいいわけじゃない」って思ってた部分が正直あって。もちろんメジャーが悪いんじゃなくて、我々みたいなバンドが、っていう意味ですけど。ただ、これは前のインタビューでも話したと思うんですけど、閉塞感っていうのはあったんですね。メジャーって言葉はキャッチーですけど、とにかく新しいこと、何か可能性のあることなら、それは何であれ全然受け入れようかなって思ったんですね。「メジャーはとにかく良くない」「やめといたほうがいいっすね」とか言ってるのはそれこそ一番ダセェなと思って。「じゃあやろう、やってみよう」って感じでしたね。躊躇う理由はなかった。
杉森:うん。そこはみんな共通してると思う。メジャーに行くなら行くで、このままTHIS IS JAPANをやるだけだし。THIS IS JAPANがやることが広がる、広げられるチャンスのひとつとしてメジャーを使えたらいいなって。
一一ただ、いざデビューというタイミングで、コロナが来ちゃいました。
杉森:そうなんですよ、ほんと。初のフジロック(『FUJI ROCK FESTIVAL』)が大雨だったみたいに(苦笑)。まぁライブができないフラストレーションはありましたけど、こういう状況でバンドが最大限できることを探してみようと、それを楽しんでいくのは別に悪くないなっていう意識でした。直接会う機会は減ったけど、ZoomとかLINEもあるし、粛々と曲作り継続してましたね。
小山:あと、週末のライブが当たり前になってたんで、そこから引き離されたことで「ライブって何のためにやってんのかな?」ってけっこう考えましたね。今は配信ライブもあるけど、見てても「これはライブの代わりになるのかな?」「やっぱ根本的に違うんだな」って思ったり。ライブの再現、みたいな感じだとそこまで面白いものにはならなくて。配信でやるとしたら、また別のものにしたほうがいいんだなって。そういうことはこの数カ月でけっこう考えましたね。
一一実際、7月7日の無観客配信ライブ『NOT FORMAL vol.12 〜THIS IS JAPAN ONLINE ONEMAN GIG 2020〜』も面白かったです。リアルタイムのVJがあったり、新しいトライが満載で。
杉森:そう。せっかくデビューしたタイミングなのに「今やることない」って止まっちゃうのはもったいないから。ディスジャパのイズムじゃないですけど、「やってみなきゃわかんないけど、とりあえずやってみよう!」の精神っていうのは今回も発揮されたのかなと思います。焦って「とにかく何かやらなければ!」じゃなくて、「現状これできるんだし、じゃあやろうか。やんない理由はないでしょ」って感じで。
一一今は余裕があるんじゃないですか。ディスジャパは何をするのがいいか、みんな少し客観的に見ているのかなと。
小山:余裕……確かに余裕があるって言われたらあるかもしれないですね。「うわ、ライブできない、ヤバい!」とは全然思ってなかったですし。ライブができないのは事実で、そこを無理にやろうとしてもしょうがないから、できない状況でTHIS IS JAPANを発信源に何かできるのか、けっこう冷静に考えてた。
一一余裕っていうのは曲にも感じることで。前作の『WEEKENDER』(2019年)は「迷ってるんですか?」みたいな感想が先に来たんですが、でも今年に入って発表された曲たちは「純粋に楽しもうとしているな」という感触がある。
杉森:そうですね。これは僕個人の話ですけど、確かに『WEEKENDER』の頃はいい意味でも悪い意味でも「どうしよう、なんとかしてぇな」って躍起になってたんです。ただ、考えすぎてバンドが停滞したり、本来の楽しさを忘れちゃうくらいなら、もう先のこと考えても仕方ないなって。結局わかんないんだし、じゃあ目の前にあるもの、そこでできることを全部やりきっていこう、みたいに切り替えたところはあります。
かわむら:うん。そこは杉森の問題なんで俺たち3人はそんな変わってないんですけど(笑)。ただ杉森が変わったのはわかる。吹っ切れた印象はあるよね? 水元よく杉森のお話聞いてたもんね?
水元:あー、最近は聞かなくて済むから。吹っ切れたんでしょうね。
一同:(笑)。
かわむら:良かった良かった。やっと吹っ切れた。
杉森:吹っ切れた……みたいです!
一一前の取材で、自分の青春を叩きつけた『FROM ALTERNATIVE』(2018年)がそこまで響かなかったことで、杉森さんひとりが「オルタナ残党兵」みたいになってしまったと言ってました。その長いトンネルをようやく抜けることができた?
杉森:うん……まぁトンネルは続いてるのかもしれない。確かに終わってないんですけど、前に進もうとしてる。トンネルの先を考えて落ち込む時間がもったいねぇな、っていう感じ。この4人は何か使命を持って成し遂げるためとか、そんな大袈裟な志で組んだわけじゃなくて。「バンドやってる時間が生きてて一番最高じゃん」みたいな、シンプルな動機で始まってるんで。それを思い出していってる感じはあります。「HEARTBEAT」(5月にリリースされた配信シングル)とかも『DISTORTION』(2016年)の後にはできてた曲で。
一一あ、そんなに古い曲?
杉森:『DISTORTION』と『FROM ALTERNATIVE』の間くらいに録った曲。なんかあっけらかんとした、飄々とした強さを持ってる曲で。コロナ禍の状況でも何かリリースしたいなと思って、過去の曲聴き返したら、これは自分たちでもちょっと元気が出たというか。
小山:いい意味で何も考えてない時に作った曲で。その何も考えてない感じが今、いろいろ考えなきゃいけない時に聴くと逆に良かった、みたいな。
一一では「new world」はいつ頃できた曲なんでしょう。
杉森:2019年のアタマから元となる曲はあって。で、その後に『ノー・ガンズ・ライフ』のエンディングのお話をなんとなくいただいて。当時は仮歌とワンコーラスしかない状態だったから、その話を受けつつ、もう一回メンバーでブラッシュアップして完成させた曲ですね。
一一アニメの世界観は、この曲にかなり大きく入っているんですか?
かわむら:そうっすね。自分はもともとアニメがすごく好きで、アニメのエンディングテーマっていうのがどれだけ重くて、どれだけ影響あるかがわかっているつもりではあったので。「とにかくここでTHIS IS JAPANらしさを」っていうよりは、ちゃんと物語とバンドの世界観が並び立って、そこに意味がある歌を考えなきゃいけないなと思って。
一一テーマソングの重さという話、もう少し詳しく聞きたいです。
かわむら:これはバンドの目線じゃなくてアニメのファン目線の話ですけど、アニメ見てる時、エンディングテーマって、変な話、ほとんど知らない人が歌ってることが多かったりするんですよ。でもそのアニメを見てる想いに一番リンクするのがオープニングテーマとエンディングテーマだし、それが有名な人か無名な人かどうかは全然関係ないんですね。で、もちろんアニメから興味を持って、そこからバンドごと好きになるパターンも少数あるのはわかってますけど、少なくとも一曲のエンディングテーマが見た人の記憶にすごく残るっていうのは事実だと思うんで。そこはすごく気を使った部分でしたね。