KIRINJI、映像と音響にこだわったスタジオライブをレポート ダイナミックさ増した『cherish』収録曲にも注目

 7月18日と25日の2週にわたり、KIRINJIがスタジオライブ映像『KIRINJI Studio Live Movie 2020』を配信した。2019年リリースの『cherish』を携えてのツアーを控えていたKIRINJIだが、COVID-19の感染蔓延に伴ってツアーは延期され、最終的に中止の判断に至った。つまり、同作収録曲のライブでのお披露目が、当面は叶わなくなった。いきおい、今回の配信イベントは『cherish』以後のKIRINJIのモードをうかがい知る貴重な機会ともなった。

 とはいえ、観客を前にしてのライブと無観客配信では、演奏への向き合い方がパフォーマーとリスナー双方で変わってくる。配信はいろんな意味で「ライブの代わり」にはならないのだ。パンデミックの先行きも不透明ななか、数多くのアーティストが有料・無料問わない無観客配信を通じて音楽を届けようと試みてきた。しかし、「どんなコンテンツを配信するのがベターなのか」の答えはなかなか出そうにない。

 今回の『KIRINJI Studio Live Movie 2020』は、KIRINJIなりにその問題に向き合って出されたひとつの答えと言えよう。ベースとなっているのは7月上旬にスタジオで収録されたパフォーマンスだ。しかし、各1時間のプログラムには、パフォーマンスだけではなく、バックステージの様子や、演奏前後のメンバーの様子を捉えたフッテージが織り交ぜられた。ライブセットというよりは、ひとつの番組と言ったほうが適切かもしれない。

 Part1のプログラム冒頭で堀込高樹は「できればiPhoneとかパソコンのスピーカーじゃなくて、ヘッドホンで聴くとか、大きい音で聴ける環境をつくってほしい」とコメントしていた。実際、配信は画質も音質も抜群によかった。主なボーカルを担う堀込と弓木英梨乃をフロントに配し、前段の下手にはベースの千ヶ崎学、後段の中央にはドラムの楠均、下手にはゲストのキーボード渡辺シュンスケ、上手には同じくゲストのパーカッション矢野博康が構える。演出は照明のみ、一人一人の奏者を捉える細かいカメラ割りで、演奏をしっかり聴かせるガイドのような印象だった。

 セットリストは『愛をあるだけ、すべて』(2018年)と『cherish』(2019年)からの楽曲を中心としたもの。同時代のポップミュージックを意識したプロダクションに力をいれてきた近作のレパートリーが、ダイナミックなサウンドの印象はそのままに、生演奏のグルーブを得て活き活きと鳴る様が心地よかった。

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