須田景凪「Carol」、合唱verが際立たせる楽曲の本質と美しさ 柴那典が本人インタビューと共に紐解く

須田景凪「Carol」(合唱ver)レビュー

 杉並児童合唱団による須田景凪の新曲「Carol」の“合唱バージョン”が公開された。『NHKみんなのうた』のために書き下ろされ、7月15日に配信リリースされたこの曲。杉並児童合唱団によってカバーされた“合唱バージョン”はピアノと男女混声による歌唱で、シンプルな演奏に乗せて徐々に歌声が重なっていくような展開になっている。

須田景凪「Carol」covered by 杉並児童合唱団

 ひょっとしたら、これまで須田景凪の活動を追ってきたリスナーにとっては驚きや違和感と共に受け止められるかもしれない。バルーン名義でのボカロPとしての活動を経て、シンガーソングライターとして着実にキャリアを重ね、ドラマやアニメ、映画主題歌を担当するなど活躍の場を広げてきた彼。その音楽的な特徴は、彼自身の持つ特徴的な声、そして綿密に構築されたサウンドメイキングのセンスにもあった。そういう意味では予想外の響きを持つこの“合唱バージョン”だが、そのぶん、この「Carol」という曲のメロディと言葉の持つピュアな美しさを抽出して感じ取れるようなものにもなっている。

 そして、「Carol」という曲は、須田景凪自身にとっても一つのターニングポイントになるのではないかという予感がある。「自分の気持ちをどう言語化すればいいかわからず、もどかしい思いをした」という幼い頃の原体験をテーマにしたこの曲。『NHKみんなのうた』からのオファーは、彼自身の根底にある表現欲求を昇華させる一つのきっかけになったのではないだろうか。筆者のインタビューで、須田自身は楽曲制作にあたって考えたことをこのように語っている。

「考える時間はすごく長かったですね。『こういう曲にしてください』とか『こういう歌詞にしてください』というリクエストは特になくて、何を描いてもいい。だから逆に、何が一番今の自分にとって相応しく描けるものなのかをすごく考えました。『NHKみんなのうた』って、自分も幼少期に観ていた印象が大きくて、そこからいろいろ思い出すことがあったんです。幼少期において、自分の感情をうまく言語化できないもどかしさがあって、それが辛かったり、悲しかった記憶を、いまだに強く覚えているんですね。誰しも自分の感情の呼び方なんてわからないわけじゃないですか。でも、それは間違いではないし、そういう部分も含めてすごく美しいものだということを提示したい。今の自分にはそれしかできないと思って、曲のテーマにしました」

 聴き手に寄り添い優しく包み込むようなメロディを持つこの「Carol」を作るにあたって、イメージしていたのは須田景凪なりの“賛美歌”を作ることだったという。

「自分としては、ある種の讃美歌のようなものにしたいと思いました。それが決まってからは結構早かったです。『NHKみんなのうた』って、幅広い世代の人が聴くじゃないですか。小さい子も聴いてくれるし、その兄弟や親、おじいちゃんやおばあちゃんも聴く。だから、ちゃんと全員に届く言葉にしたかったし、メロディにしたかった。そういうことを考えていったら、結果的にシンプルなものになったと思います」

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