谷口鮪×津野米咲、君島大空×塩塚モエカ、小西遼中心としたTELE-PLAY……リモートで生まれた新たなコラボ曲
リモートライブやリモート制作アルバムなど、コロナ禍で生まれたミュージシャンによる様々な試み。ここ最近では、コロナ禍で制作された様々なコラボレーション楽曲が多くリリースされている。本稿ではその中から3曲を紹介し、それぞれが持つメッセージを紐解いていきたい。
KANA-BOONの谷口鮪(Vo/Gt)と、赤い公園の津野米咲(Gt/)が結成したユニット・wasabiは、6月22日に「sweet seep sleep」を配信開始した。かねてから「いつか共作できれば」と話していたという両者がトラックを送り合う形で完成させたこの楽曲は、バンドの作詞作曲を担っている者同士の共作だけあってそれぞれの感性が混ざり合ったような新鮮さがある。
津野米咲の手掛けたミドルテンポのループを軸にした、グロッケンの音色がちらちらと点滅するトラックは可愛らしく親しみやすい。そこに谷口鮪の発色豊かなボーカルが乗ることで、穏やかな気分を運ぶチルアウトナンバーが出来あがった。谷口鮪はKANA-BOONではあまり用いないリラックスした発声で楽曲のメロウネスを体現しており、打ち込みのビート上ならではの歌唱を披露。奇抜なアレンジも得意とする津野米咲だが、この曲では歌に寄り添うナチュラルな音像に仕上げており、双方の新たなアプローチを楽しめる1曲でもある。
大切な“君”に会えない不安を見つめ慈しむ歌詞も、そっとリスナーの生活を掬い上げてくれる。言葉遊びを交えながらも、気取らない言葉で“ゆっくり眠れる”ことを願う。決して壮大なメッセージではないが、今最も必要とされる優しさなのではないだろうか。
6月24日には羊文学の塩塚モエカ(Vo/Gt)と、君島大空のコラボで「サーカスナイト」が配信リリースされた。原曲は七尾旅人の代表曲であり、多くのミュージシャンにカバーされてきた楽曲である。過去にライブで共演した際にも披露され、この度の外出自粛期間中にデータの交換を重ねて完成させた音源だ。
君島大空が細やかに、それでいて力強く爪弾くガットギターによる伴奏は楽曲の憂いをより高め、単なるアコースティックver.で済ませないような再構築となっている。塩塚モエカのボーカルは羊文学で聴かせるよりもローの効いた滑らかな歌唱で、物悲しいムードを放つ。神秘的に鳴り続けるギターノイズと終盤に降り注ぐ荘厳なコーラスも相まって、吸い込まれそうな聴き心地だ。
震えるように囁かれる歌詞は、ひきちぎれそうな胸からそのまま零れ落ちるように耳元に届く。特に〈どんなにそれが絵空事でも 飛ぶしかない夜 君がほしい 口づけてしまいたい〉というラインは、会いたくても会えなかった2020年春の感情として再現されていく。七尾が2012年に発表したコロナ禍とは無縁なはずの歌詞だが、その祈りは今歌われるべき言葉として鳴り響く。距離を飛び越えて美しく溶け合った今回の共作によって、このラブソングに新たな意味が付随されたのだ。生き延びたい”今夜”を何度も繰り返すことが未来に繋がっていくと示してくれているよう。