菊地成孔が新プロジェクトで挑んだ“ハイブリッド公演” 今後のコンサートの在り方を示すヒントに

菊地成孔の“ハイブリッド公演”レポ

 今年2月末以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、コンサートの延期・中止が相次ぎ、甚大なダメージを被っている音楽業界。ライブハウスからアリーナまで全てのコンサート会場の関係者、ライブ制作・設営などに関わるスタッフが窮地に立たされていることはご存知の通りだ。

 しかし6月中旬以降、本当に少しずつではあるが、コンサート活動を再開する会場/アーティストが増えてきた。日本のジャズの聖地、ブルーノート東京もその一つ。まずは6月13日に『ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ』のライブストリーミング公演(無観客ライブ・有料配信)を開催。その後、SOIL & "PIMP" SESSIONS、Answer to Remember(石若駿が同世代のミュージシャンたちと組んだエクスペリメンタルミュージックプロジェクト)、POLYPLUS、オルケスタ・デ・ラ・ルスも同じくストリーミング配信で公演を行った。

 さらに6月20日、21日の『小曽根真 “Solo” & “with friends”』公演からはライブストリーミング公演とともに店舗での営業を再開。従業員のマスク着用、十分な換気、テーブルなどの消毒はもちろん、現状、座席数は通常の50%以下に設定され、全席横並びで相席はなし。荷物を預けるクロークは一時的に休止され、終演後の会計はテーブルチェックを行うなど、可能な限りの感染予防対策を行ったうえでの公演だ。

 “店舗でのライブ×ストリーミング”によるハイブリッド公演の第2弾は、6月26日に行われた菊地成孔の『Naruyoshi Kikuchi “Sings, Plays&Scats”』。田中倫明(Per)、林正樹(Pf)、永見寿久(Ba)、宮嶋洋輔(Gt)という凄腕のミュージシャンとともにJ-POP、ジャズのスタンダード、オリジナル曲をアコースティック編成による演奏、菊地のボーカル/スキャット/サックスで披露する新プロジェクトだ。

 この日の公演ももちろん、前述した感染予防対策が取られていた。入場時には体温チェック、アルコールでの手の消毒を実施。チェックイン時から公演中、会計まで、観客同士が接近しすぎないように配慮されていた。クロークが使用できない、フードのサービスは軽食のみなどの制限はあるが、“シックな雰囲気のジャズクラブで、飲食とともにライブを楽しむ”というブルーノート東京の魅力は以前とまったく変わらない。(ちなみに筆者は、ロビー奥にある「Bar BACKYARD」で、この公演のためのオリジナルカクテル”flowers of romance”をいただきました。カクテルの名前はもちろん、Public Image Ltdのアルバムに由来します)。

 菊地成孔の公演も素晴らしかった。菊地自身が事前に告知していた通り、“Sings, Plays&Scats”はバンド名ではなく、弾き語りやアンプラグドと同様、演奏スタイルの名称。ファンク、アフロビート、“エレクトリック・マイルス期”などをハイブリッドさせたDC/PRG、南米音楽、現代音楽、ラウンドなどを融合させたペペ・トルメント・アスカラールなど大所帯のバンドを主宰してきた菊地だが、“Sings, Plays&Scats”は文字通り、なじみの深いミュージシャンとともに歌い、演奏し、スキャットするという内容。基本的には“リラックスして好きな曲を楽しむ”という構成なのだが、その奥にある音楽的なバックグラウンド、この状況だからこそ滲み出る豊潤な演奏と歌をたっぷりと堪能することができた。

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