菊地成孔が新プロジェクトで挑んだ“ハイブリッド公演” 今後のコンサートの在り方を示すヒントに

菊地成孔の“ハイブリッド公演”レポ

 この日のテーマは“花”。The Smithsのモリッシーよろしく、ジーンズの後ろポケットに花束を突っ込んで登場した菊地は、まずは宮嶋のギターとともにムーンライダーズの「G.o.a.P.(急いでピクニックへ行こう)」をカバー。さらにサーカスの「Mr.サマータイム」(エンディングで「Ave Maria」をマッシュアップ)、荒井由実の「ベルベット・イースター」などをボサノバテイストにリアレンジして披露。また、チャーリー・パーカー、オスカー・ピーターソンの名演で知られる「All」をすべてスキャットで演奏、菊地のサックス、田中パーカッション、林のクラーベによるルンバのスタンダード楽曲のセッションなど、多彩なステージが続いた。

 ライブ後半では、かつて菊地がプロデュースしたオーニソロジーの辻村泰彦(Vo/Gt)も参加し、原田真二の「キャンディ」、エルトン・ジョンの「Amoreena」(演奏前に菊地による日本語訳詩の朗読も)などをデュエット。さらに夏目漱石の『三四郎』の一節「花は必ず剪って、瓶裏にながむべきものである」をモチーフにしたオリジナル曲(作詞は菊地の私塾の生徒だという)、DC/PRGのアンセム「MIRROR BALLS」に歌詞を付けた新バージョンなど、貴重な演奏を聴くことができた。

 アンコールに選ばれたのは、コロナ禍の犠牲となったリー・コニッツの「レベッカ」。菊地自身もステージで語っていたように、名盤『サブコンシャス・リー』に収録されたこの曲が日本で完全再現されたのは、おそらく初めてだろう。

 「この先どうなるかわからないですけど、いい調子で、気分良くなると免疫が上がるからね。楽しんで免疫上げてください。僕らもがんばりますので」という言葉とともにライブは終了した。

 ゆっくりと、少しずつ戻りつつある日常のなかで、すべてのミュージシャン、すべての音楽ビジネスに関わる人は「コンサートはどうあるべきか?」というテーマに向き合わざるを得ない。シックでラグジュアリーな会場の魅力、そして、“ここでしか聴けない”というコンテンツを併せ持ったブルーノート東京のハイブリッド公演は、今後のコンサートの在り方を示す、大きなヒントになりそうだ。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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