ジム・ジャームッシュが体現する“音楽愛” イギー・ポップら歴代出演者集った『デッド・ドント・ダイ』を観て
また、ミュージシャンとしてはSQÜRLというバンドを率い、『デッド・ドント・ダイ』の劇伴も手がけており、サントラではダイアログ(登場人物の会話)を挟みながら、実験的なテイストの音楽を奏でている。
ジャームッシュはこのサントラを作るにあたってインスピレーションとなった映画音楽として、イタリアのプログレバンド、Goblinが手がけた『ゾンビ』や、同じくイタリアの映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネの『遊星からの物体X』、ドイツのプログレバンド、Tangerine Dreamの『恐怖の報酬』などを挙げているが、そのいずれもが音楽によって映画の評価が一層上がったと言っても過言ではない名作だ。
また、『デッド・ドント・ダイ』の「顔」とも言えるタイトルテーマ曲もジャームッシュ自身がスタージル・シンプソンに発注。のんびりとしたカントリーナンバーがラジオから流れるさまは、いかにもアメリカらしい風景だが、それがこれから起こるであろう不穏さを一層引き立てている。対照的な音楽を使って効果を上げるのはデヴィッド・リンチにも通じる手法であり、音楽と映像の相乗効果を知る者ならではのこだわりだろう。
映画として観れば全体的に悪ノリが過ぎるところもある『デッド・ドント・ダイ』だが、キャスト、音楽も合わせて考えると、全て「ジャームッシュが仲間を集めて作った私的な映画」と捉えれば合点がいく。
ジャームッシュの活動は近年、ますます「音楽寄り」になってきていると感じるが、『デッド・ドント・ダイ』で若き日に影響を受けたロメロの『ゾンビ』へオマージュを捧げたように、やはり年齢を重ねると、自らのルーツを見直して人生の総括的なものを作ってみたいという気持ちが強くなるのかもしれない。
■美馬亜貴子
編集者・ライター。元『CROSSBEAT』。音楽、映画、演芸について書いてます。最新編集本『それでも売れないバンドマン〜もう本当にダメかもしれない』(カザマタカフミ著/シンコーミュージック刊)が発売中。