鬼頭明里が『STYLE』で解放させた内なるパッション 多彩なロックを凝縮した1stアルバムを聴き解く

内なるパッションを解放したアンリミテッドなロックアルバム

 作詞・作曲・編曲を久保正貴(Black Butterfly)が手がけた「CRAZY ROCK NIGHT」は、アグレッシブにギターが鳴り響くヘヴィロックで、ギタリストである久保ならではの楽曲だ。〈WOW WOW〉というアンセムで始まるや、鬼頭による英語のシャウトが炸裂。聴く者を鼓舞するような迫力あるボーカルが印象的で、Dメロではワイルドなラップも聴かせ、鬼頭の多才ぶりが伺える。

「CRAZY ROCK NIGHT」

 そして「君の花を祈ろう」は、同じくアルバムに収録された「Closer」の作詞・作曲も手がけたshiloによるナンバーで、ボカロPとしての顔も持つ白神真志朗が編曲を担当。キラキラとしたピアノやサビで広がる切なくも爽やかさ溢れるメロディなど、ボカロ曲特有のメランコリックな雰囲気を今にアップデートさせたような楽曲だ。囁くでも、張り叫ぶでもない、どこか淡々とした雰囲気の鬼頭の歌声が秀逸で、花を題材にした楽曲の世界観を見事に具現化していると言えるだろう。

「君の花を祈ろう」

 これまで数多くのキャラクターソングでその歌声を披露してきた鬼頭明里。『Re:ステージ!』ではKiRaReのメンバーとして、『ブレンド・S』ではブレンド・Aのメンバーとして、爽やかで青春感溢れる曲を数多く歌ってきた。また『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』では、ユニット曲の他に彼女が演じる近江彼方のソロ曲「眠れる森に行きたいな」にて、そのファンシーな世界観がファンの間で話題となった。

 キャラクターソングは、あくまでも作品や役ありきのものだ。しかし、そうした煌びやかな世界観の中でも、彼女は確かな存在感を発揮してきた。それは彼女の持つ歌唱力と表現力の賜物だろう。そのベクトルをロックに振り切ったのが本作で、より本来の鬼頭明里を表現していると言える。

 アニオタを公言する彼女は、『涼宮ハルヒの憂鬱』『けいおん!』『鋼の錬金術師』『BLEACH』などのファンで、オムニバスの主題歌アルバムなどを聴いていたことも明かしている。アニメを通じてUVERworldやSCANDALなどのロックバンドも好んで聴いてきたそうだ(参照)。キャラソンやアニメとは異なる彼女の内なるパッションが解放されたことによって、『STYLE』という、実にアンリミテッドなロックアルバムが完成したのだろう。

■榑林 史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

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