『ガールズバンドクライ』迷い悩む少女たちの物語を照らし出す トゲナシトゲアリ、1stアルバム全曲レビュー
4月5日深夜からついに放送スタートしたテレビアニメ『ガールズバンドクライ』。同作は東映アニメーション×agehasprings×ユニバーサル ミュージックによるメディアミックスプロジェクトから生まれた完全新作のオリジナルアニメで、昨年4月に同プロジェクトが始動して以降、劇中バンドのトゲナシトゲアリが登場する3DアニメMV、およびagehaspringsの玉井健二がプロデュースを手がける高クオリティな楽曲群が早くから話題を集めてきた。
アニメ『ガールズバンドクライ』の主人公となるトゲナシトゲアリのメンバーは、『Girl's Rock Audition』を通じて決定した5人。agehaspringsが生み出す難易度の高い楽曲を演奏できる実力と同時に、声優としても活動できる才能の持ち主ということで、その選考は非常に難航したことが玉井の口からも語られていたが(※1)、実際に選ばれた5人……井芹仁菜役の理名(Vo)、河原木桃香役の夕莉(Gt)、安和すばる役の美怜(Dr)、海老塚智役の凪都(Key)、ルパ役の朱李(Ba)の非凡な才能は、これまでに実施された公開練習ライブ(※2)や初ワンマンライブ(※3)などを通じて遺憾無く発揮されており、テレビアニメへの期待をさらに高めることに成功している。
そんなトゲナシトゲアリがテレビアニメ『ガールズバンドクライ』放送前までの活動を総括するかのように、キャリア初のオリジナルアルバム『棘アリ』を4月24日にリリースする。トゲナシトゲアリは昨年から今年にかけて5枚のシングルを発表しているが、本作ではこれらのシングルを通じて公開してきたオリジナル曲全10曲をコンパイル。バンドとしてのオリジナリティを確立させる上で血となり肉となった、モダンで個性豊かなロックチューンが凝縮された、非常に聴き応えのある内容となっている。
テレビアニメ『ガールズバンドクライ』がオンエアされて以降、新たにトゲナシトゲアリに興味を持ったビギナーも少なくないのではないだろうか。本稿ではアルバム『棘アリ』収録曲を解説しつつ、トゲナシトゲアリの魅力に迫ってみたい。
1.名もなき何もかも
理名の高速アカペラからスタートするこの曲は、バンドにとって原点と言える1曲。トゲナシトゲアリというバンドのひとつの指針として最初に制作された楽曲であり、プロデューサーの玉井も「(劇中で夕莉が演じる河原木桃香のキャラクターが出身地や年齢、パーソナリティなどの設定を現実の世界に落とし込んだときに)彼女は2000年代初頭のバンドサウンドとボカロ曲に触発されているはずで、人間が歌えないような譜割りの曲をバンドでやろうとする」(※1)と述べていることからもその方向性が理解できるはず。「残響散歌」をはじめAimerの楽曲を多数手掛けてきた飛内将大の作曲したメロディは、まさにそうした背景が透けて見える仕上がりで、激しいピアノプレイを導入したエモ調の和ロックサウンドとの相性も抜群だ。
2.偽りの理
エレクトロニックユニット・XYLÖZ(シロ)のプロデューサー/DJであり、Who-ya Extendedの準メンバーとしても活躍するKOHDが作曲したこの曲は、要所要所に“キメ”パートを用意することでダイナミックさが際立つ作風。「名もなき何もかも」ほどBPMが速いわけではないが、浮遊感の強いギターフレーズと伸びやかなボーカルとが相まって、心地よいノリを生み出すことに成功している。
3.気鬱、白濁す
Aimerの「Ivy Ivy Ivy」「Spiral dance」などの作曲で知られるMisty mintが手がけたこの曲は、前2曲と比べると抑えめのトーンの中で緩急を作り出す構成。理名のボーカルも突き抜けるような爽快感とは異なる、モヤモヤした感情を抱える中で微かな希望を見出そうとする繊細さが伝わり、当時15歳という年齢からは想像できない実力の高さに驚かされる。
4.理想的パラドクスとは
パーカッシヴなピアノプレイとポストロック的ギターフレーズが独特の空気感を作り上げるこの曲は、上白石萌音「ひとりごと」の作曲や幾田りら「Midnight Talk」の編曲などで知られるキクイケタロウが作詞・作曲を担当。バンドアンサンブルこそかなり手数が多いが、「気鬱、白濁す」に近いトーンで奏でられる穏やかさはこのバンドの懐の深さを示すに十分なものだ。
5.爆ぜて咲く
ビートの強さと心地よい疾走感、サビでの独特な節回しが印象に残るメロディなどでトゲナシトゲアリの新たな魅力を引き出そうとする、Misty mint作詞・作曲による1曲。これまでの楽曲は葛藤や焦燥感などを表現した歌詞が中心だったが、ここでは終盤の〈心隠さずに 笑う〉に向けて徐々に明るさを伴っていくのも印象的で、その曲調やアレンジ含めここでさらにバンドとしての幅を広げ始めていることに気付かされる。