指原莉乃、渡辺美優紀、佐々木彩夏……アイドルによるプロデュース増えた背景とは? 過渡期を迎えたシーンの潮流
指原莉乃がHKT48在籍中に立ち上げた=LOVEと≠ME。ももいろクローバーZの佐々木彩夏がプレイングプロデューサーをつとめる浪江女子発組合。元NMB48の渡辺美優紀によるAnge et Folletta。いわゆる「オトナ」だけがプロデューサーをつとめるのではなく、「アイドル(元アイドル)がアイドルをプロデュースする時代」になってきた。
作家・アイドル評論家の中森明夫氏は2017年4月、リアルサウンドでのインタビュー(参照)でこの話題について触れ、「アイドルがアイドルを進化させる未来」と語っている。まさに今、そういう未来がやってきた感がある。
それにしてもなぜアイドルがアイドルをプロデュースするようになったのか。「オトナ」のプロデューサーはもはや不要なのだろうか。今回はその背景について考察する。
「オトナ」のプロデュースのもとでアイドルは活動
はじめに、アイドルのプロデューサーとはどういう仕事なのか簡単に説明したい。プロデューサーはまず、管理するアイドル(ソロ、グループ問わず)が向かうべきコンセプトを決める。そして、そのコンセプトに沿った楽曲や衣装などを制作。オーディション実施の際は合否の判定権を持ち、活動費の工面もおこなう。さらにスタッフ数が足りない場合は、プロデューサー自らがメンバーのSNSアカウントの管理、メンタルケア、物販販売、ライブ遠征時の車の運転をすることもある。
つまりプロデューサーとはグループの統括責任者である。そしてアイドルたちは、そういった立場の裏方のことを業界用語感覚で「オトナ」と呼ぶ。「オトナ」には、ずっと芸能関係に関わってきた人もいれば、まったくの素人もいる。今ではバンドマンがグループを立ち上げることも多い。アイドルたちは、そういう「オトナ」の指示を受けながら活動するのが定番だった。
指原、佐々木、渡辺ら「アイドルをプロデュースするアイドル」を、この「オトナ」に位置づけるかどうかは難しい判断だが、本稿では切り離して語る。
カリスマ性と実績が重要
指原、佐々木、渡辺は言わずと知れた人気タレントだ。指原、渡辺はアイドル時代にトップクラスの支持を集め、佐々木は約12年にわたり現役で活躍している。全員、いろんな努力を重ねた上で結果を残し、そのポジションにたどり着いた。本格的なプロデューサー業は現グループが初だが、それまでに培った演者としての経験はもちろん武器になる。それは「オトナ」が誰も持ち合わせていないものだ。
ここでまず重視したいのは、そんな彼女たちが持つカリスマ性と実績である。さまざまな実績を残して身につけた人気アイドル特有のカリスマ性は、プロデューサーとしてこの上ない説得力となる。荒っぽい言い方だが、プロデュースされる側やファン側としては、何者かよく分からないプロデューサーより(地下アイドル業界にはたくさんいる)、カリスマ性を持った彼女たちの方に「ついていきたい」と惹かれるはず。
たとえばZOCは、大森靖子というカリスマ的な存在感を放つミュージシャンのプロデュースのもと、メンバーの個性とチカラが絡み合い、前代未聞の化学反応が生まれて魅力的なグループへと成長している。大森のプロデュースだからこそ、このメンバーが集まり、屈指のグループが誕生したと言える。
もちろん、必ずしも名選手が名監督、名コーチになるわけではない。それでも誰の目にも明らかな実績とカリスマ性は、師事するには十分なもの。「あなたたちを必ず売れさせる」と言っても信ぴょう性は高く聞こえる。これが何も持ち合わせていないプロデューサーが言うと「どういう根拠で?」となる。
指原莉乃もプロデューサー就任会見のとき、「AKB48の一期生のメンバーは秋元康プロデュースに惹かれて入った。今回、指原莉乃プロデュースに惹かれて入る子がどれだけいるのか心配」とコメントをしていた。それほどプロデューサーの魅力というものは強い影響を及ぼす。
また指原、佐々木、渡辺が、演者の立場を知る「理解者」であることも大きい。ひとたびアイドルとして活動すれば、ステージの上だけではなく私生活でも律するところが出てくる。やりがい溢れる一方で、体力、気持ちの面で追い詰められることもあるだろう。そうなったとき共有できる部分が多いのは、「オトナ」ではなくアイドル経験のあるプロデューサーだ。
ちなみに、アイドル経験者が別のキャリアに挑む上で、プロデューサー業を選択するのは当然の流れ。過去の経験が生かせる仕事を探すのは誰にでもある。3人も「これまでのことを生かして仕事や能力の幅を広げる」という考えのもとで、プロデュース業に取り組んでいるのではないか。