中森明夫が語る、“アイドル入門本”に託した思い「僕の使命はアイドルの未来に賭けること」

中森明夫、“アイドル入門本”に託した思い

 「おたく」「チャイドル」「3M」といった数々の新語を生み出し、アイドル評論の先駆けとして文筆活動を続けてきた中森明夫。そんな中森氏の新刊『アイドルになりたい!』が筑摩書房より発売された。80年代より現在まで、約35年にわたってアイドルについて語り、『アイドルにっぽん』(新潮社)や『AKB48白熱論争』(幻冬舎、小林よしのり、宇野常寛、濱野智史との共著)といった書籍を刊行して来た氏が、新作に選んだテーマは“アイドル入門本”。アイドルを目指す女の子に向けて「アイドルの定義」「アイドルの仕事とは何か」「アイドルになる方法」などについて、読者に向けてレクチャーする内容となっている。

 そんな中森氏に同書の内容について、そしてアイドルの未来について、話を聞いた。(岡島紳士)

若者とその親の二世代に読んでもらいたい

ーーいつ、どんなきっかけで本書を書くことになったんでしょうか?

中森明夫(以下、中森):2年以上前に筑摩書房さんから「ちくまプリマー新書」で本を書いてくれないかという提案がありました。プリマー新書って中高生とか若い世代がターゲットなんですよ。それだったらアイドルについて書くのがいいんじゃないかなと思ったんです。書き上がったのは去年の秋ですね。

ーー何故“アイドル入門本”をテーマにされたんでしょうか?

中森:僕は1982年にアイドル中森明菜の名前をもじって「中森明夫」という名前をつけてもらい、ライターとしてデビューしました。以来35年にわたってアイドルについて文章を書き続けてきた。その間に『アイドルにっぽん』『AKB48白熱論争』『午前32時の能年玲奈』(河出書房新社)といった書籍を出したけど、アイドルというテーマのみで一冊書き下ろしたのは今回が初めてなんですよ。アイドル入門本という投げ方をするのが、そういうキャリアを積んできた自分の思いを若い世代に一番伝えられるんじゃないかと思ったんですね。小学校高学年以上なら理解できるような平易な文体を心がけました。それから2013年に「あまちゃん」ブームがあって、地方のファンイベントへよく行くようになったんですよ。そうした折に「あまちゃん」ファンの4、50代の方々に「子どもをアイドルにしたい」と相談されるケースがけっこうあるんです。だから「何かいい本ありませんか?」と言われたときに渡せる本があればいいなとも思いました。2、30年前は地方の親御さんは子どもをアイドルにするなんて大反対だったんですよ。今はむしろ親がやらせたいということが増えてるんです。だから若い世代だけじゃなく、その親世代にも読んでもらいたいですね。

アイドルとは好きになってもらう仕事

ーーマンガやゲームなど他のオタクカルチャーではあったけど、アイドルの入門書はありそうでなかったかもしれませんね。

中森:新小学1年生の女の子の「将来就きたい職業」の上位に「芸能人・歌手・モデル」が数年入り続けてるんですよね。だからそういう本があってもいいじゃないかと。とはいえ、アイドルになりたいという子は多くても、アイドルというものが何なのか、分かってないんじゃないかなと感じていました。だからまず第1章「アイドルって何だろう?」にそのことを書きました。例えばアイドルといえば「AKBとかハロプロみたいに歌って踊って」というものをイメージすると思うんだけど、歌手っていえるほど歌が上手いわけではないし、ダンサーっていえるほどダンスが上手いわけではない。モデルに比べるとスタイル抜群というわけでもない。オーディションを受けたとしても、自分より歌やダンスが下手な子が受かって自分は落ちる、ということが起こったりする。これがスポーツならその原因を克服しようと努力ができるんですけど、アイドルの場合は何を努力していいか分からないという人が多いと思うんですよ。

ーー「アイドルとは好きになってもらう仕事なんだ」ということですよね。これは2010年11月に中森さんがTwitterに連投し、話題となった「芸能人は好きになってもらう仕事」と繋がっていますよね。(参考:http://togetter.com/li/69570

中森:あの一連のツイートがすごく反響があったんですよ。特にホリエモン(堀江貴文)が反応して、褒めてくれて、フォロワー数もグッと増えて。ああいうことは前から考えてたことだし、人に話したりもしていたことなんだけど、こうやって不特定多数に見られる形で発表すると、大きなリアクションがあるんだなと気づかされました。この本はアイドルについての本なんだけど、人生論、生き方論、社会論にもなっているところがあると思います。

このネット社会でエゴサするなって言ったって無理でしょ?

ーー「アイドルとしてブレークしたら、きみは友達を失う」「悪い芸能事務所」など、ネガティブなこともたくさん書かれてあるのが印象的です。

中森:若い子はアイドルが脚光を浴びてるところばかり見てしまうから。搾取されたり、いかがわしい事務所もたくさんあるとも言われたりする。被害者にはなって欲しくないなあと。「アイドルになると友達を失う」というのは、実際に何人ものアイドルに聞いた話なんですね。やっぱり売れる子は友達がいなくなっても耐えられる子か、元々友達がいなかったような、ハングリー精神のある子だと。今はSNSがあるので、有名になるとボロクソに書かれますよね。それでみんな大体デビュー直後にメンタルが病むんですよ。でも、それでダメになるような子は、アイドルとして生き残るのは難しいんじゃないか。このネット社会でエゴサするなって言ったって無理でしょ? 街を歩いてるだけで一般の人に写真を撮られたりとか。昔とはケタ違いに日常的なプレッシャーが大きいですね。

ーーそう思います。「(握手会では)どんなに嫌な人が相手でも、必ず握手をする」といった、アイドルという仕事の過酷さについても書かれていますね。

中森:表に出ることを仕事にしている人にとって、そういうメンタルに負担がかかることは不可避ですね。プライベートも制限されるし。僕も1989年に『Mの世代 ぼくらとミヤザキ君』(太田出版、大塚英志との共著)を出した時は実際に脅迫されたり、大変でしたよ。アイドルほどじゃないけど、ちょっとは気持ちが分かります。顔と名前を出して仕事をしていれば、買わなくていい悪意を買ったりするんです。しかも僕よりはるかに人生経験の少ない若い女の子がそこに向かって行かなければならないんだから大変だよね。アイドルって夢のあるキラキラした存在じゃないですか。でもいざやってみたら辛いことはいっぱいある。それを伝えることは、もしかしたら夢を壊しちゃうところもあるかもしれない。だけど本気でアイドルになりたい人に、そういう部分を伝えないのは嘘になってしまうよなあって。どうしても本当のことを書いて、その上で「アイドルって素晴らしいんだ!」と励ましの言葉を送りたかった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる