引退発表の渡辺麻友、貫き通した“王道アイドル”の肩書き 向井地美音や矢吹奈子、生田絵梨花らに継承される思い
王道アイドル。渡辺麻友がAKB48在籍時から卒業、引退のその時まで、守り通してきたその肩書きは誰もが認めるものだ。それは決してイメージを壊すような浮いた話が彼女になかったからではない。清楚なイメージの裏にあるストイックな完璧主義者。2015年6月に放送された『情熱大陸』(MBS・TBS系)の中で、渡辺は自身が信じるアイドルという立場に「私は私なりの王道を。夢と希望をじゃないけど、綺麗な部分だけを見せる。アイドルってそういうモノなんじゃないか」と答えていた。
今ではレガシーとも呼ばれる“神7”の中で最後にグループを卒業し、引退という道を辿るメンバーが渡辺だと誰が予想しただろう。生まれ変わったなら自由でのんびりした猫になりたいと『情熱大陸』で語っていた渡辺。数年にわたり体調が優れず、健康上の理由で芸能活動を続けていくことが難しいという判断から芸能人生に幕を引くこととなった。すでに所属事務所のプロダクション尾木のホームページには渡辺麻友の文字はなく、最後のファンへのメッセージと一緒に彼女のTwitter、Instagramも消えているが、苦楽を共にしたAKB48時代の同志や後輩がその輝かしい功績を讃えている。AKB48のYouTubeチャンネルには、「まゆゆ、ありがとう」というタイトルで彼女の軌跡を辿る12曲のプレイリストが作成された。
2006年、第3期AKB48オーディションに合格。ユニット・渡り廊下走り隊やソロデビューなど、エースとして多岐にわたる活動を行っていた渡辺は、2013年リリースのシングル曲「So long !」で表題曲としては初のセンターを経験。2014年開催の『AKB48 37thシングル選抜総選挙』では悲願の1位を獲得する。この頃から、渡辺が言葉にし始めていたのが、次の世代にバトンを繋ぐという使命。“まゆゆ”として自身をアイドルとして形成してくれたグループへの感謝と、大好きなAKB48をこれからも守り、継続させていくために。前田敦子や大島優子を筆頭に、AKB48を代表する歴代のメンバーたちは代々見えないバトン、メッセージを後輩に受け継いできた。『渡辺麻友~AKB48卒業までの63日間に密着、そしてその未来~』(フジテレビNEXT)にて、“さしまゆ”として親友でありライバルでもあった指原莉乃が「本当に影で支えてくれている、まさに背中で語るタイプ」と語っているように、渡辺はAKB48の伝統を守るべく、全てのステージにて後輩に背中で語ってきたのだ。
2017年10月、故郷に錦を飾る形でさいたまスーパーアリーナにて開催された『渡辺麻友卒業コンサート~みんなの夢が叶いますように~』は、渡辺の11年間にわたるAKB48人生の集大成だった。アイドルにとって、卒業コンサートとはこれまでの功績を凝縮した門出のステージである。青のペンライトと歓声の中に一人で現れた、純白の衣装を着た渡辺。40人のオーケストラの演奏をバックに歌われた「初日」は、チームBの劇場公演楽曲。コンサートのサブタイトルに掲げている「みんなの夢が叶いますように」は、チームBの円陣のかけ声であり、同時に彼女がこのコンサートで表現したいメッセージでもあった。AKB48は、決して真面目にストイックに活動することが正解な場所ではない。何かのきっかけを掴み、選抜メンバーへと駆け上がるメンバーがいる一方で、日々劇場に出続けても日の目を見ることなく卒業していくメンバーもいる。
〈夢は涙の先 泣き止んだ微笑の花 頑張った蕾がやがて咲く〉
〈夢は涙の先 雨風に負けず信じてる 晴れた空に 祈り届くまで〉
渡辺が感極まり涙を見せた「初日」の歌詞。彼女も努力はいつか実を結ぶと信じ、諦めないで夢に手を伸ばしてきた一人だった。アイドルとは、夢を与える職業だ。頑張った先に憧れのステージがある。そのことを身をもって体現して見せた渡辺の姿勢に、“王道アイドル”と呼ばれる一つの所以を感じさせる。