ポルノグラフィティ 岡野昭仁、配信番組『DISPATCHERS』で届ける“歌力” カリスマ性放つ理由は努力の積み重ねに

 これまでに岡野本人は様々なインタビューで、自身の声が“ポップ”なことについて、ロックバンドのボーカルとして相応しくないのではと思い悩んでいたことがあると明かしており、また、“バンド”としてのポルノグラフィティのパブリックイメージにも思うところがあったようだ。彼らのデビューは1999年秋。当時のバンドシーンはMr.ChildrenやGLAY、L’Arc~en~Cielなどが牽引していた時代。そんな中でデビュー曲「アポロ」が大ヒット、翌2000年の「サウダージ」、2001年「アゲハ蝶」はミリオンセラーを記録した。だが当時の作曲の多くは、プロデューサーの本間昭光が手掛けており(作詞は新藤)、岡野としては引け目があったと近年になって語っている。2000年頃から隆盛となった夏フェス等にも出ないタイプで、同時期にはBUMP OF CHICKEN、くるり、NUMBER GIRLなどがデビューしているが、バンドとの横の繋がりもあまりなかったように見受ける。

 それ故か、デビュー17年目にして初出演した『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017』の感想を、若いアーティストに“カバーしていました”と言われて驚いた、『ロッキン』は場違いかと思っていた、と述べたり、先に記したKing Gnu・井口理のラジオ番組でも岡野は「自分たちには若いミュージシャンのフォロワーがあまり居ないんじゃないかと思い込んでいた」と返している。

 そんな彼らの現在地はというと、デビューから今に至るまで、新作を出せばシングル・アルバムともに必ずチャートの上位圏に入り、ツアーを行えばアリーナ級、昨年の20周年記念公演では東京ドーム2daysを完売させている。デビュー20年を超えてもメインストリームで変わらずトップを張れていることは、バンドやロックといった体裁など関係なく、彼らの立ち位置を築いたということだ。それは2人で作る楽曲も去ることながら、岡野の唯一無二のポップな声と、絶対的な歌力が支柱になっていることは紛れもない。

 『DISPATCHERS』の中でも「インディーズ時代に友達に胴上げされても歌がブレなかった」と豪語するように、天性の音感力の持ち主だ。それでも40歳を手前に再びボイストレーニングへ通い始め、近年公私ともに親交のあるスガ シカオから、歌い方の幅をつけることを提案されたと話す。現在45歳だが、その歌声は若い頃より洗練され、“歌の筋力”が増している。ライブでも滅多に原キーを変えず、昔の曲を歌う際も贅肉のような余分なアレンジは加えない。先に“陰キャ”などと記したが、普段の素朴なテンションとは裏腹に、歌を発すると圧倒的カリスマ性を放つ理由は、こうした歌への飽くなき努力の積み重ねがあるからだろう。

 ちなみに2013年の秋から約1年間、岡野は大阪のFM802で『LIVE IT UP』のDJを担当し、毎週弾き語りを披露していた。多くはカバー曲で、ジャンルを問わずどんな曲でも完璧に歌い上げ、OA後は元歌アーティストのファンたちが録音を求めて右往左往したという話がある(当時はradikoのタイムフリーが無かった)。今回始まった番組でも、同じ感動を呼び起こしてくれるだろう。

 コロナ禍の外出自粛のなか、無観客ライブ、メッセージ性のある曲を届ける、政治を語る、SNSでリアルタイムに繋がる……音楽人たちが今だからこその様々な発信を行っている。岡野のように、持ち前の歌力をフル活用するシンプルな行いもその一つ。腕の立つ料理人の美味しい料理を食べると誰でも幸せになれるように、聞き手に音楽的背景や知識があっても無くても、歌力のある人の歌は人を幸せにする。それが、第一線を走り続けている実力者の証ではないだろうか。

■筧真帆
日韓音楽コミュニケータ。2004~2007年に渡韓、西江大学韓国語教育院(語学堂)を卒業。日韓音楽のジャーナリスト兼エージェントを務める。得意分野は韓国新鋭音楽シーンと邦楽ロック。

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