「テレビが伝える音楽」第9回(前編)
『春は必ず来る』演出スタッフに聞く、FNS音楽特別番組までの10日間 テレビがいま、エンタメ業界にできること
『MUSIC FAIR』は愚直に突き詰めてきた番組
ーー緊急特番の前には、18時から『MUSIC FAIR』の放送が行われます。同番組は放送2800回を迎える長寿番組となりました。浜崎さんはこれまでフジテレビの数々の音楽番組に携わってきたとのことですが。
浜崎:そうですね。担当番組には『堂本兄弟』『FNS歌謡祭』『オダイバ!!超次元音楽祭』などがありますが、『MUSIC FAIR』は2012年からです。『MUSIC FAIR』のように56年続く番組はなかなかなく、レギュラー番組としては日本最長寿です。『MUSIC FAIR』は、昔の映像を見ても今の映像を見ても『MUSIC FAIR』だと感じることができるのがすごいところ。要は番組のカラーがブレていないんです。『MUSIC FAIR』については、私が『MUSIC FAIR』をしっかり受け継いでいくという意識で演出しています。そういった意味ではほかの番組に関わるときとはかなり意識が違いますね。
――『MUSIC FAIR』を受け継ぐ、とは具体的にはどういったことでしょうか?
浜崎:番組のスポンサーであるシオノギ製薬さんが、番組を作るときに「良質な音楽を良質な映像で届けてください」とおっしゃったそうです。悲しいかな、テレビ番組のスタッフは常に0.1%の数字の上下で一喜一憂しています。0.1%上がったコーナーを続けてみたり、下がったらそのコーナーをやめてみたり、日々試行錯誤、悪い言葉でいうと右往左往する。しかし、『MUSIC FAIR』に関しては、56年間右往左往したことは一度も無くて「良質な音楽を良質な映像で届けてください」をただただ遂行する、愚直に突き詰めてきた番組です。
『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』のような音楽番組が視聴率をとっていた時代、『MUSIC FAIR』は影が薄かったかもしれません。変わらずに愚直にやっている感じが、時代が求めているものとやや乖離している時期ももちろんありました。でもその時でさえトークパートを増やそう、トークに笑いが必要だろうとは一切ならず、ずっと突き詰めてきた結果、時代がまた『MUSIC FAIR』のようなものを求め始めている。小手先のものは要らないと、いまテレビの音楽番組はなってきてると思うんです。だから『MUSIC FAIR』が合う時代がやってきたなという感覚があります。
――たしかに『MUSIC FAIR』では上質なパフォーマンスを見ることができるという視聴者からの期待も大きいと思います。シンガーの登場も多い番組ですが、歌を魅せる上での演出面でのこだわりはありますか?
浜崎:フジテレビの音楽番組に欠かせないコラボレーション企画は、『MUSIC FAIR』でも番組オリジナルで本当に昔からやっていたんですよ。70年代、80年代にも松任谷由実さんと沢田研二さん、美空ひばりさんと郷ひろみさんなどがコラボしてきました。なので、『MUSIC FAIR』はそういうものを作る番組だという意識がアーティストにもあって、「『MUSIC FAIR』に出るからには難しいこととかチャレンジングなこととか、やらないでどうする」とみなさん思ってくださってるんだと思うんですよね。「サラッと終わっちゃうなんて『MUSIC FAIR』じゃないでしょ。持ち歌1曲なんて、そんなの違いますよ」と、アーティストサイドも思ってくださっている。これは長くやっている番組ならではだと思いますね。
――確固たるブランディングが確立されているのですね。現在4週に渡り放送されている2800回記念コンサートでのエピソードについても聞かせてください。
浜崎: 印象深いのは、NEWSとももいろクローバーZのコラボ企画です。NEWSとはここ3年くらいコンスタントに番組をやらせていただいていますが、以前『一曲NEW魂!!!!』という特番で、山に登って山頂でNEWSが歌うという企画がありました。丸一日メンバーと一緒にいて、山を登って降りて、歩くのが辛い状況の中、増田貴久くんが色んな曲を口ずさみながら下山していて、そこでももクロの曲を歌っていたんです。「増田くん、ももクロ好きなの?」と聞いたら、「好きですよ! すごく元気になるし」と言っていて。で、今回のコンサートで歌う曲について考えていたとき、ふとその言葉を思い出して、これはいいタイミングではないかと企画しました。アイデアは、そういう日常のちょっとしたストックから生まれてくることが多いですね。
あと、2800回のために作ったわけではないのですが、『MUSIC FAIR』のオリジナルというと、LA DIVA(森山良子、平原綾香、新妻聖子、サラ・オレイン)は単独コンサートも開催していて、これこそ”THE・MUSIC FAIR”というコラボレーションですよね。歌唱力の高い4人がそれぞれ別々のフレーズを歌ってハーモニーを作る……(音楽プロデューサーの)武部聡志さんも「えらいことやろうとしてるな」と言っていました(笑)。武部さんは年間何千曲とアレンジを手がけているので、多分普段ならパパっとできるんでしょうけど、その武部さんでも「うーん」と唸りながらアレンジをしたくらい、本当に難しいことをやっているんです。でも、こういうことを『MUSIC FAIR』ではやっていきたいと、改めてみんなLA DIVAを見て思ったんじゃないかなと思いますね。
――アーティスト自体もかなりハードルの高いことにチャレンジしていると。
浜崎:LA DIVAのコンサートでは20曲ほど披露したのですが、森山良子さんが膨大な量の譜面に紙がボロボロになるまで書き込んでいて……。あんなにすごいキャリアの方が、受験生のように必死になって取り組んでくださっているんです。森山さんのすごさを目の当たりにしましたよね。いくつになっても学ぶことをやめないアーティストのみなさんのすごさに、こちらもハッとさせられます。
――レジェンド級のアーティストも番組を通して新しいことに挑戦し、腕を磨いているのですね。『MUSIC FAIR』は今後も変わらず続いていくのでしょうか。
浜崎:なかなか変わらないって難しいですからね。でも『MUSIC FAIR』は、これからも良質な音楽を良質な映像で届けていくという思いを持って作り続けていきます。
(後編へ続く)
■番組情報
『緊急生放送!! FNS音楽特別番組 春は必ず来る』
3月21日(土)19:00~22:00生放送(※21時54分までの地域あり)
<出演者>
【司会】
榎並大二郎、永島優美(フジテレビアナウンサー)
【出演アーティスト】
AI
E-girls
AKB48
エレファントカシマシ
『Endless SHOCK』カンパニー(堂本光一・上田竜也ほか)※事前収録での出演
大黒摩季
上白石萌音
関ジャニ∞
城南海
倖田來未
さかなクン
ジェジュン
城田優
スキマスイッチ
SixTONES
sumika
DA PUMP
ディズニーの仲間達
東京スカパラダイスオーケストラ
NUMBER GIRL
NEWS
乃木坂46
氷川きよし
藤井フミヤ
水樹奈々
森高千里
森山直太朗
WANIMA
(五十音順)
<スタッフ>
チーフプロデューサー:三浦淳
演出:浜崎綾
ディレクター:島田和正
プロデューサー:土田芳美、宇賀神裕子、後藤夏美、中村峰子
公式サイト
■番組概要
『SHIONOGI MUSIC FAIR』
3月7日(土)18時〜18時30分
3月14日(土)18時〜18時30分
3月21日(土)18時〜18時30分
3月28日(土)18時〜18時30分
<出演者>
進行:仲間由紀恵
軽部真一(フジテレビアナウンサー)
<ゲスト>
加山雄三&The Rock Chippers(森山良子・谷村新司・南こうせつ・さだまさし・THE ALFEE)、LA DIVA(森山良子・平原綾香・新妻聖子・サラ・オレイン)、髙橋真梨子、德永英明、ゆず、水樹奈々、NEWS、JUJU、三浦大知、秦 基博、山崎育三郎、ももいろクローバーZ、昆 夏美、Little Glee Monster
公式サイト
公式Twitter(@MUSICFAIR_Fuji)