「テレビが伝える音楽」第9回(前編)
『春は必ず来る』演出スタッフに聞く、FNS音楽特別番組までの10日間 テレビがいま、エンタメ業界にできること
3月21日よる19時より『緊急生放送!! FNS音楽特別番組 春は必ず来る』(フジテレビ系)が放送される。新型コロナウイルス感染拡大防止のためコンサートや公演の中止・延期が相次ぐなど、エンターテインメント界が大きな打撃を受けるなか、フジテレビでは「少しでも音楽の力で元気を取り戻そう!」という趣旨のもと特別番組を企画。これに賛同したアーティストたちが26組集結し、「春は必ず来る」をテーマに、日本中を元気にする名曲の数々を3時間にわたりパフォーマンスする。
リアルサウンドでは、2800回記念を迎えた『MUSIC FAIR』(同日18時より放送)や『堂本兄弟』『FNS歌謡祭』などの番組演出を務める浜崎綾氏に音楽番組に関する取材オファーを行っていた。そのやりとりの中で、急遽音楽特番の制作が決まったとの連絡を受け、鋭意制作中の同番組について話を聞くことができた。
前後編でお送りする浜崎氏のインタビュー前編では、10日間で一つの音楽番組を作り上げた同氏の貴重な体験談とエンターテイメントに対する情熱、また56年間一貫したテーマで作り上げてきた『MUSIC FAIR』を受け継ぐ一人のテレビマンとしての信念を語ってもらった。(編集部)
いま必要なのは自分たちへのエール
ーー突然舞い込んだという音楽特番のお話をまずはお聞かせください。
浜崎:今日は金曜日で(取材日は3月13日)、本当にやることが決まったのが水曜日の午前11時です。突然電話がかかってきて「大変だ! 来週の土曜日、3時間の音楽番組をゴールデンでやるぞ! よろしく!」と言われて。普通だったら無茶な話ですけど、その瞬間「やってやるぞ!」というアドレナリンが出ていた自分がいて、職業病だなと思いました(笑)。今回の特番は、新型コロナウイルスの感染拡大防止を受けてコンサートや舞台が中止・延期に追い込まれている中で、「音楽やエンターテインメント業界は負けません。また来ていただける時期が来たら楽しんでください」というメッセージを発したいというところからスタートしたものです。
ーー準備は具体的にどのように進んでいきましたか?
浜崎:私は最初の電話がかかってきたとき家にいましたが、本番まであと10日しかない。まずは美術のデザイナーさんに「今日すぐ会えますか?」と連絡をして、水曜日の16時にデザイナーさんと会いました。誰が出るか、どんな番組かもまだわからない中、とりあえずセットを作ろうということになり、16時から18時くらいまででいったんセットができました。スタッフもいない状態だったので、制作のスタッフと技術のスタッフに声をかけて、とりあえず人をおさえて。水曜、木曜、と、出演アーティストにも「この番組趣旨に賛同していただけるのであれば、急な話ですが出てください」とお願いをして……それで今日、出ますと言ってくれた方が8組くらいいます(最終的には26組の出演が決定)。すごいですよね。本当にありがたいし、ありがたいと同時にアーティストやレコード会社、事務所の方々もみなさん“なにくそ”という気持ちを持っているということが伝わりました。ご自身のライブが延期になったり、ツアーがキャンセルになっていて、番組を通してなにかしらの気持ちを表現したいと思っていただいているんだなと。いまの段階ではまだ全貌は見えていませんが、番組を見ていただいたら、「10日でなかなかやったな」と思っていただける内容にはなっていると思います。
――歌う曲もすでに8組の方とは打ち合わせ済み?浜崎:はい。もう同時に話し合いながら。今回のコロナは震災のときとは違って、人を元気づけるというより必要なのは自分たちへのエールだと思っていて。エンターテインメントに関わる自分としての意思表明であり、同業者や関係者へのエール、そういった意味合いも含めて「この歌詞がいいと思うから、この曲はどうですか?」と交渉しています。
――では選曲や見せ方もフジテレビの看板音楽番組『FNS歌謡祭』や『MUSIC FAIR』などとはまた違ったものになりそうですね。
浜崎:そうですね。だから今回の放送でアーティスト同士のコラボレーションはあまりないかもしれません(放送前日、東京スカパラダイスオーケストラ×さかなクン×関ジャニ∞、ジェジュン×城田優のコラボが発表された)。あと現状、3月21日の段階でイベントの自粛ムードがどうなっているかはわからないので「ツアーが出来ても出来なくても、それをそのまま見せたらどうですか」「お客さんが誰もいないツアーをやるはずだったライブ会場、舞台の劇場を映したらどうですか」など、色々なアイデアをいただきながら、いままさに準備している最中です。
――番組は生放送ですか?
浜崎:3月21日、19時からの3時間生放送で、場合によっては事前収録の人たちもいるかもしれません。どうなるやら乞うご期待です(堂本光一演出・主演ミュージカル『Endless SHOCK』の特別パフォーマンスは事前収録となった)。
――非常にスリリングな制作ですね。
浜崎:スリリングではありますが、今までやってきたことを考えると、まぁできるだろうと思っているところもあるから自分が怖いです(笑)。でもこういうときにテレビが何かやらなくてどうするんだ、という気持ちはありますよね。レコード会社の方々もライブの映像を無料でYouTubeに開放したりしていますし。また、いま学生はみんな家から出られなくて退屈している。主婦の方々も普段より負担が増えて大変。だからこそ、数時間だけでもほっこりするというか、「あぁやっぱりエンターテインメントって楽しいよね」「こういうムードが終わったらライブ・劇場に行ってみようかな」と視聴者の方に思ってもらえると嬉しいです。
――本当にそうですね。エンターテインメントの楽しさが忘れられてしまうことだけは避けたいです。
浜崎:そうですよね。中止したり自粛したりするのが当たり前なムードになってしまっているところに若干中指を立てたい気持ちもありますし。そういった思いと自分たちへのエールを番組を通して届けていきたいです。