2020年現在のシーンにおける“V系っぽい歌詞”を構成するものは? 己龍、BugLugからヒプマイ 四十物十四までを分析

 また、今女性ファンを中心に大きなムーブメントを起こしている音楽原作キャラクターラッププロジェクト・ヒプノシスマイクの四十物十四(あいものじゅうし)の楽曲にも触れておきたい。「月光陰-Moonlight Shadow-」と題された彼のソロ曲は、まさに世界観を作り込んだヴィジュアル系バンド・Leetspeak monstersが制作を担当した。ラップ曲のため歌詞は一節一節が短いものの、〈夜な夜な見る黒い夢の中〉〈雲の奥に幻想の島見出す〉〈墓場背に向け銀色の薔薇片手に〉といったように、ダークな世界観を連想させるワードが散りばめられており、普段ヴィジュアル系の音楽を聴かない層のリスナーにも“V系っぽい”と評価されている。

「月光陰-Moonlight Shadow-」

 個人的にこの楽曲の歌詞には、ワードチョイス以外にもう一つ新たなV系らしさを感じさせる魅力があると思う。それは、歌い手のバックボーンが反映されている部分だ。四十物十四は、学生時代に過酷ないじめにあっていた過去を持つヴィジュアル系ミュージシャンだ。その背景を知った上で聴くと、リスナーは歌詞を通して彼の生きざまに触れることができる。〈狂った人生の歯車〉から生まれた〈底なし沼のような地獄〉を乗り越え、〈宵待月の名を背負い 孤独でも歩くと決め今に至るのさ〉と前を向く彼が、〈スポットライト浴び輝きを増す マイク掴めば誰だって誰かのヒーロー〉と、音楽で誰かを救える希望を見出す……といった具合に。いじめや虐待といったハードな過去を、パーソナルインタビューなどで告白しているヴィジュアル系アーティストは少なくないし、それをテーマにした歌詞も多い。実体験を通して生まれた言葉には説得力があり、同じように生きづらさを感じているリスナーに刺さる魅力がある。ワードチョイスだけでなく、アーティストの生きざままで赤裸々に反映された歌詞であることも、本作品がもつ“V系らしい魅力”の一つであると言いたい。

 バンドといえばサウンドに注目が集まりがちであるが、歌詞はバンドの世界観、思想、生きざまなどをリスナーへ具体的な言葉で伝えることができる、どこまでも自由なツールである。

■南 明歩
ヴィジュアル系を聴いて育った平成生まれのライター。埼玉県出身。

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