新型コロナウイルスが“会いにいける”アイドル市場に与える打撃 経済学の観点から影響を考える
新型コロナウイルスの影響は、「会いにいけるアイドル」をマーケティングの中核にしている日本のアイドル市場を直撃している。2月29日夕刻の記者会見で、安倍晋三総理は改めて多人数の行事の中止・延期・縮小などを国民に要請した。この行事の中には当然にアイドルのライブ(コンサート)、特典会などが含まれてると解釈できる。実際に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が2月25日に発表した基本方針の直後に、AKB48、モーニング娘。’20、ももいろクローバーZら女性トップアイドルグループが出演する『ガールズ・グループの祭典 RAGAZZE!~少女たちよ!~』(NHK総合)が、無観客で収録されることが発表されたのが典型的である。またジャニーズ事務所も所属グループ主催の公演の延期・休演を発表している。
大小のアイドルたちの公演の延期・取りやめ、または開催方法の変更などもかなり以前から進んでいた。例えば、開催場所のライブハウス、ホール、デパートやショッピングモールの運営側からアイドルの運営側に打診があり、それでライブを中止するケースを頻繁に見かける。ライブでの特典会などで利益を得ることが至上命題のライブアイドルたちにとっては死活問題である。ライブはやめても特典会を開催する。消毒やマスクの着用などを観客、スタッフに義務付ける。入場の際に手指をアルコール除菌する。特典会などではアイドル自身もマスクを付けるなど、さまざまな対応がとられている。
あるアイドルの運営は、カバンの中にアルコール除菌のボトルや様々な除菌グッズ、マスクなどをぎっしり詰めているところを見せてくれた。そして「本当に深刻な影響がある」と率直に語った。伝説のアイドルグループしず風&絆を輩出した名古屋のバーサス・プロダクションのはしけい氏は、3月1日の深夜に以下のようにTwitterに呟いた。
「コロナ感染収束が いつまで 続くかも わからない 出口が見えない中バンドマン アーティスト アイドルは 皆さんが 思っている有名な方々でも その一日が重要な収入源だったりします。
止めるは地獄 止めなくて 万一何かあっても 風評地獄!
なら今 演じる現場を 求めている人がいるのなら」(原文ママ)
この心情はアイドル現場を運営する人に共通するマインドだろう。筆者も深く共感する。
新型コロナウイルスが今後どれだけ拡大していくのか、または終息するのか、いまの段階ではまったくわからない。いまのところ個々のアイドル、運営、そしてファンたちが最善だと思う行動を個々にしていくしかない。アイドルの経済活動(=糧を得ること)と社会的な防疫はトレードオフの関係にある。どちらか一方をとるという話でもない。完全な正解を求めることは困難だ。
日本の女子アイドル市場は、4年ほど前に試算したことがあるが、約2500億円だった。現在もそうたいして数字は変わらないと思う。今回の新型コロナウィルスのよる経済的な打撃が、仮に昨年度の消費増税の影響と同じ規模だとしよう。そうすると経済全体で6%(年率換算)ほど落ち込む。アイドル市場にそのままあてはめると、150億円の損失が発生する。巨額の損失になる。この補償は誰がするのだろうか?
例えばアイドルを従業員として処遇している運営は、雇用調整助成金の利用も考えられるだろう。また新型コロナウイルス感染症の影響によって売上高等が減少している中小企業者や小規模事業者の資金繰りを特別の枠で保証する制度もある。これらの制度が、特に小規模なアイドル運営仕様になっているかどうかは議論があるところだ。