森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.187
赤い公園、キュウソネコカミ、tricot、Halo at 四畳半、ネクライトーキー……独自のアンサンブル/アレンジ追求するバンド作品
新体制になって初となる赤い公園のシングルCD、10周年&子(ねずみ)年のアニバーサリーイヤーを迎えたキュウソネコカミのニューアルバムなどを紹介。バンドというスタイルの可能性、そして、独自のアンサンブル/アレンジを追求する5バンドの最新の表現を体感してほしい。
ギザギザに尖ったノイズに導かれた煌びやかなギターフレーズ、楽曲のなかのシーンによって変化し、徐々に高揚感を上げていくリズムセクション、そして、切なさ、懐かしさ、解放感を兼ね備えたメロディ。新体制になって初めての赤い公園のシングル『絶対零度』表題曲は、鋭利なポップネス、際立った演奏能力、緻密な構築性と奔放なアイデアが混ざったアレンジなど、赤い公園の特性が一気にアップデートされたアッパーチューンに仕上がった。楽曲の中心を担っているのは、石野理子のボーカル。起伏に富んだ、ミュージカル風と言ってもいいような歌を彼女は、抑制と解放をバランスよくコントロールしながら見事に表現している。感情を押し付けることなく、どこか冷静なスタンスを貫いているのも素晴らしい。現在の体制になって1年8カ月、赤い公園はついに新たなスタイルを掴み取ったのだと思う。
結成10周年、子(ネズミ)年のWメモリアルイヤーを迎えたキュウソネコカミの新作ミニアルバム『ハリネズミズム』。超ファストなメロコアともに地元・西宮への溢れんばかりの愛情を歌い上げた「Welcome to 西宮」、キャッチーなギターとニューウェーブ的シンセが絡み合い、“スマフォの速度制限”をテーマにした歌詞が一つになった「戯我浪費」、ラウドロック的なギターが鳴り響く「適当には生きて行けない(2020 ver.)」、ライブ感に溢れたエモーショナルなサウンドのなかで“やりたいことをやりたいだけ”という意思を改めて示したリード曲「冷めない夢」(ヤマサキセイヤの渾身シャウトがカッコいい!)。“あるあるネタ”と直情的な感情を行き来する歌詞を支える、アレンジ巧者ぶりに感心させられる。
変拍子、ポリリズムを交えたアンサンブル、シャープな響きをたたえたギターフレーズ、リズム的な快楽と予測を超えたラインを同時に描くメロディ、そして、〈甘酸っぱい問題抱える体は/今 あふれる〉(「あふれる」)など、聴き手の想像力を刺激しまくる歌詞。tricotのスタイル/フォーマットがこれまで以上の精度と密度で表現されたメジャー1stアルバム『真っ黒』。ドラマティックに展開する表題曲をはじめ、中嶋イッキュウのボーカルの表現の深まりも大きな聴きどころ。ジェニーハイでの経験を踏まえ、シンガーとしての彼女のポテンシャルはさらに高まったと言っていい。最新シングル『あふれる』の収録曲「あふれる」「なか」、インディーズ時代の人気曲をリテイクした楽曲など、10年目を迎えたバンドの軌跡を追体験できるのも本作の魅力だ。