木村拓哉、ソロアルバムが首位に キャラクターの芯の太さが際立つ『Go with the Flow』を分析

 『Go with the Flow』に話を戻す。声に着目したときに面白かったのが終盤に収められた2曲だ。まずは、LOVE PSYCHEDELICOが提供した「My Life」。他の楽曲では概ね木村の声は通りの良さを強調する方向で処理されている(高い音がすっとのびていくような……)が、この曲はあえてすこしチープな印象を与える、やや籠もった音質になっている。完全にデッド(残響がない)ではなく、少しだけ部屋の鳴りが感じられる密室的な雰囲気もある。ギターリフとボーカルだけで進行する楽曲冒頭を聴くとよくわかるだろう。かつ、歌唱はメロディにのせるよりもリズムにのせていく、言ってみればLOVE PSYCHEDELICOらしさを反映したスタイル。サウンドの処理においても、歌唱法においても、アルバムを通じて届けられる木村拓哉らしさをちょっとずらすような役割を担っている。

 また、最後に収められた「弱い僕だから」での歌声も印象深い。この曲はもともと、忌野清志郎が自身のレパートリーを木村拓哉に贈ったもので、SMAPのアルバム『SMAP 011 ス』(1997年)に木村のソロ曲として収録されていた。20年以上の年月を経ての再録だ。「Session」という本作でのサブタイトルが示唆するように、少し肩の抜けた雰囲気が漂うトラックになっているが、忌野清志郎に少し寄せた節回しを聴かせる部分には逆説的な「素」を感じた。つまり、木村拓哉らしくあろうとするのではなく、あえて清志郎になろうとするところに、キャラクターの魅惑的なほつれがあらわれているのでは、ということだ。

 1997年のバージョンでも清志郎っぽい節回しを演じてみせている部分はあるけれど、1枚まるごと木村拓哉で埋め尽くしたあとにこれが出てくると、不思議な感慨を覚える。〈君の前では 作り笑いもしない/君の前では 恥もかけるのさ〉って、木村拓哉が忌野清志郎に向かって言っているかのようじゃないですか。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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