登坂広臣、アルバム『Who Are You?』レビュー 強烈なインパクト放つ楽曲揃ったソロ活動の集大成
三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEのボーカリストとして、エンターテインメントの最前線をひた走る登坂広臣。その勢いはソロワークの充実ぶりにも顕著に現れ、特に2019年は、HIROOMI TOSAKAというアーティストブランドを確固たるものへと押し上げる勝負イヤーだったように思う。同年11月リリースのデジタルシングル『OVERDOSE』のレビュー(登坂広臣、ソロプロジェクトの紛れもない発展形ーー最新曲「OVERDOSE」で見せた変化と本領)でも言及したが、試行錯誤を結実させるだけの実力と勘の良さが作品ごとに向上。一貫してクールな佇まいを崩さないセルフプロデュースの面も含めて、今後のただならぬ飛躍を確かに予感させた。
そんな登坂は、我々の期待を何ら裏切ることなく、2020年も早々に次なるステージへ進出。そう、以前よりアナウンスされていた2ndアルバムがついにドロップされたのだ。タイトルは『Who Are You?』。先に紹介した「OVERDOSE」や、劇場版『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』主題歌として好評を博した「BLUE SAPPHIRE」、その名の通り赤裸々な愛情表現にこだわった「NAKED LOVE」など、2019年発表の楽曲を一挙収録した紛うことなき集大成である。
また、本作には「Who Are You?」「Nobody Knows」「One Way Love」という3つの新曲も収録。中でもアルバムのトップを飾る「Who Are You?」は、色んな意味で強烈なインパクトを放つ。冒頭、ハンドクラップよろしく軽いタッチのビートに乗せて〈I don’t really know〉と連呼する登坂。続く〈現実なのか/幻なのか/存在が/薄れてく/その前に〉というフレーズ、そしてサビ部分では〈Who am I〉とけたたましく声を上げているあたり、主人公が意識下でひどく混乱している様子が示される。サスペンスとSF映画が融合したような仕上がりのミュージックビデオから察するに、多重人格がテーマに組み込まれているのは間違いなさそうだが、登坂が歌う事実を踏まえて解釈するならば、本質はグレードアップを遂げゆく自己との対峙だろう。地位や名声を得てポピュラーな存在になるにつれて、本来の自分がどんな人物なのかを見失ってしまう。そんなスターならではの運命(さだめ)や葛藤に切り込んだのがこの「Who Are You?」ではないだろうか。まさに今、ソロ活動が軌道に乗り、無双状態にある登坂が体を張って実現させた、渾身の1曲である。切迫ムードに覆われた重厚なエレクトロサウンドも手伝って、MVの初鑑賞時にはなかなかのエネルギーを消費したが、それもまた、彼が嬉々として仕組んだ策略の一つなのだと思うと妙に心地よい。
「Nobody Knows」は、「Who Are You?」に勝るとも劣らないエッジの効いたアップナンバー。ダブステップの要素を取り入れた比較的オーセンティックなタイプのEDMだが、油断は禁物。登坂の持ち味である謎めいた佇まい、そして自己陶酔の極みとも言うべき艶っぽいボーカルのブランディングが、疾走感溢れるトラックと見事にはまっている。制作に関与した一人であるToru Ishikawaは、本作収録の「UNDER THE MOONLIGHT」も担当。登坂の作品のみならず、これから名前を見かける機会が増えていきそうな注目株である。また余談だが、数年前に登坂が発表した初のフォトエッセイのタイトルも「Nobody Knows」である。同書を持っている人は、この楽曲を聴きながらあらためてページをめくってみるといいかもしれない。