世界デビュー果たしたさユりの「航海の唄」 『僕のヒーローアカデミア』ともリンクする“それでも”の先の強い意志

さユり、「航海の唄」を通して伝える強い意志

 さユりがTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』(読売テレビ・日本テレビ系 全国29局ネット※一部地域を除く)第4期エンディグテーマのために書き下ろしたシングル表題曲「航海の唄」は、彼女がこれまで進んできた航海から新たな岐路に立つ、強い決心が込められた楽曲だ。

酸欠少女さユり『航海の唄』MV(short ver.) TVアニメ「僕のヒーローアカデミア」第4期EDテーマ / MY HERO ACADEMIA ED - About a Voyage

 さユりは、アメリカのソニー・ミュージックのメジャーレーベル<ソニー・ミュージックマスターワークス>傘下の<ミランレコーズ>から世界デビューを果たした。アメリカのソニー・ミュージックからリリースする日本人メジャーアーティストは、宇多田ヒカル以来。「航海の唄」「十億年」「蜂と見世物」「オッドアイ」の4曲を収録した「『About a Voyage』World Edition EP」は、USのiTunes world song chartで5位を記録している。アメリカで高い人気を誇る『僕のヒーローアカデミア』を通じて、さユりの楽曲が海を渡り、外国でも広がり出していることが分かる。

 同曲を書き下ろしたTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』は『週刊少年ジャンプ』で連載中の堀越耕平による漫画が原作。登場キャラクターは、“個性”と呼ばれる超常能力を一人ひとりが持っている。主人公の緑谷出久(デク)は生まれつき“無個性”であり、ある日憧れのヒーロー・オールマイトに、内なるヒーローとしての資質を見出され、彼から個性「ワン・フォー・オール」を受け継ぐ。デクは“個性”を使いこなせるよう懸命の努力と工夫を以て成長し、敵<ヴィラン>から人々と社会を守るヒーローになることを目指していく。

〈強さは要らない/何も持って無くていい/信じるそれだけでいい〉

 「航海の唄」のサビのフレーズは、元々何も力を持っていなかったデクや、劇中で“個性”を消失してしまう通形ミリオといった登場キャラクターに当てた歌詞であるとともに、“君”に向けた救いの言葉。アニメ『僕だけがいない街』のエンディングテーマ「それは小さな光のような」(梶浦由記による作詞・作曲)、アニメ『クズの本懐』のエンディングテーマ「平行線」など、さユりは多くのアニメの世界観を様々な形で歌ってきた。エンディングムービーは、第4期「ヒーローインターン編」で物語の鍵を握る少女、壊理(エリ)がメインで描かれている。楽曲の疾走感とともに展開されていくシリアスな心象風景は前述の歌詞が、デク、ミリオとはまた違った意味合いを持っていく。「航海の唄」が持つメッセージ性の強さは、デクやミリオ、さらに壊理を通して、不安を抱えた人々の心に明日へと歩き出す勇気をくれるだろう。

〈醜さも晒しながら静かにめくりめく日常に / 理想に身を焦がす〉

 ヒーローとは、時に公衆の面前で晒し者の存在になることもある。例えば、オールマイトは痩せ細ったトゥルーフォームの姿を世間一般に晒すことになった。それでも“平和の象徴”は理想で在り続けないといけない。そんな煌びやかな世界の裏に広がる厳しい現実は、決してアニメの話だけではなく、我々が生きる社会にも当てはまる。

 また注目したいのが、トレードマークであったポンチョを脱ぎ一新した白い衣装。「航海の唄」で歌われているのは、未来への希望と覚悟。さユりにとって、この曲は彼女自身がこれまで航行してきた日々を肯定し、未来に繋ぐ歌でもある。

 さユりのデビューから編曲を手がける江口亮を迎えたサウンドは、優美なオケが響くイントロから一転して、つん裂くようなエレキギターの音色が鳴り続ける。歪みとデジタルノイズが混ざるさユりのサウンドは、デビュー曲「ミカヅキ」から一貫している。そのサウンド作りは、さユりの力強いボーカルがあって成立しているが、サビ終わりの真っ直ぐな叫びは彼女の気迫に満ちた思いが伝わる新境地と言っていい。

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