渡辺志保が選ぶ、2019年HIPHOP年間ベスト10 中堅ラッパーたちの粒揃いアルバムが充実した一年

 また、カーディ・Bのブレイク以降、なんと言ってもフィメールラッパーによる素晴らしいアルバム作品がたくさん世に送り出されたことにも大きな喜びを感じる。今年、もっとも感銘を受けたアルバムはRapsody『Eve』だ。マヤ・アンジェロウやセレーナ・ウィリアムス、ミシェル・オバマといった偉業を成し遂げたアフリカン・アメリカン女性らの名前を各曲のタイトルに配し、自身のルーツを紐解きつつ女性たちを鼓舞するリリックを紡ぎ上げた。Leikeli47との「Oprah」は最強のガールズアンセム。ミーガン・ジー・スターリオンも今年は大ブレイクの一年で、デビュー アルバム『Fever』では、これまでにも打ち出してきた“女ピンプ”としての魅力たっぷりの出来。今年、シーンを席巻しまくったダベイビーを招いたトレンド感たっぷりの「Cash Shit」や強気なパンチラインが散りばめられた「Realer」などのシングル楽曲も良かった。他、リトル・シムズやMsバンクス、キャッシュ・ドール、ドージャ・キャットら、カラフルな良アルバム作品が揃った一年だった。来年は刑期を終えてシャバに戻ってきたJTが復活したCity Girlsの動きに引き続き注目していきたいと思う。

 FutureやMigos、リル・ベイビーにガンナら、引き続き騒がしいアトランタ周辺をまとめ上げたのがヤング・サグのデビューアルバム『So Much Fun』だろう。プロデューサーのウィージーの手腕も光るガンナ&トラヴィス・スコットを迎えた「Hot」、J.コール&トラヴィス・スコットとの「The London」とシングルもことごとくヒット。新たなトレンドをうまくアルバムという形に落とし込んだ好例かなとも思う。地元への愛情も示しつつうまくトレンドを取り入れたアルバムと言えば、デンゼル・カリー『ZUU』も素晴らしかった。

 いつも、予想しない作品を届けてくれるカニエ・ウエストには、今年も『Jesus Is King』でぶっ飛ばされた次第である。同名の映画作品もIMAXシアター限定で世界中で公開され、東京でも6回だけの限定上映が行われたこともここに記しておく。これもまた、カニエのクリエイティビティに一歩近づくことが出来るような希有な体験だった。タイラー・ザ・クリエイター『IGOR』にも、天才的なこだわりを感じたし、それはIDKのデビューアルバム『Is He Real?』にも、ヤバいほどに継承されているとも感じた。

 2020年も、これまでの常識を覆してくれるような濃厚なヒップホップアルバムに期待したい。

RealSound_Best2019@Shiho Watanabe

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
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blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

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