欅坂46「避雷針」に漂う不可解な空気とは何なのか 『ベストヒット歌謡祭』のパフォーマンスを振り返る

 今回の放送での特筆すべきは、メンバーがちょうど二分割に分かれたとき、ステージに残されたセンターの平手が真っ赤な照明の中でピタッと静止したあの一瞬の静寂、そして、そこから終盤にかけて全員でV字を作って見せた躍動感に満ちたダンス、という”静から動へ”の畳み掛けるような急展開が、しっかりと映像に収められていた点にあるだろう。〈君〉に対する主人公の強い気持ちが徐々に爆発していく歌詞の流れが、そのまま舞台上で繰り広げられていた。あるいは、”手紙”として受け取った作詞者の思いを、彼女たちなりに咀嚼して、見ているこちら側へと投げ掛けているようでもあった。

 また、この曲は5枚目のシングル『風に吹かれても』Type-Cのカップリング曲として2017年に発売された。2017年と言えば、欅坂46の握手会会場で発煙筒を投げた男が捕まる事件が起きている。報道によれば犯人は「メンバーに対する誹謗中傷する投稿がインターネット上にはびこっていたことから、メンバーがイベントでナイフで傷つけられそうになる事件を起こせば、同情が集まって誹謗は止むと考えた」のだという(参照)。この曲に漂うある種の不穏なムードは、当時の欅坂46に流れていた空気がパッケージされているように思える。と同時に、この事件の後にリリースされたこの曲の歌詞が、この男の歪んだ愛情と近似している点にも注目せざるを得ない。

 自らへ向けられた攻撃性をそのまま作品として昇華したかのような気概、それが「避雷針」ひいてはこの時期あたりから今現在にまで至る欅坂46の作品にはある。そうしたものを、音楽で、そしてダンスで表現している点がこの曲の魅力なのだろう。

■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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Twitter(@az_ogi)

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