若者から注目集める新鋭ラッパー ASOBOiSM 多角的なサウンドと時代を切り取る感性を読む
Public Enemyのチャック・Dが「ラップは黒いCNNだ」と喝破したように、ヒップホップ、ラップは他の音楽やカルチャーよりも時代を映し出す傾向が非常に強いジャンルといえるだろう。それは日本においても同様であり、ここ最近でいえば、BAD HOPや舐達磨などの台頭や、ANARCHYが監督した映画『WALKING MAN』でも、そういった時代性が非常に強く表れている。
ラップという方法論がRHYMESTER「ザ・グレート・アマチュアリズム」の〈スッゲー敷居低い歌唱法 /ちょうどオレが生きた証拠〉という宇多丸ヴァースにあるように、「音楽教育を受けずとも、文化資本が無くとも、やろうと思えば誰でも出来る」表現であり、同時にユースカルチャーの一翼を担っているからであろう。それによって、声なき声が、特に若者の声が、音楽として、メッセージとして表出される。
それは当然ながら女性ラッパーにおいても顕著に現れることであり、生きづらさとその解放をメッセージにするあっこゴリラや、自身のバックグラウンドも含めて自分自身をアピールするちゃんみななど枚挙にいとまがない。それはニューカマーにおいても、ある意味ではバッドテイストともいえるギャルやヤンキーカルチャーへの“アコガレ”を作品に落とし込んでいるvalkneeや、ナンセンスな楽曲かと思わせつつ、その実には日本社会の“ガイジン”に対する酷薄さも曲に込めるなみちえなど、数多く登場している。
そのなみちえを客演に迎え、「HAPPOUBIZIN feat. なみちえ」をリリースした、ラッパー/シンガーソングライターのASOBOiSMも、その系譜に繋がるだろう。
1994年生まれのASOBOiSMは、2017年リリースの『DWBH』でデビュー。もともとのキャリアとしてはアコギを使ったシンガーソングライターだったということもあってか、『DWBH』はキャッチーなメロディが耳に残る作風で、ある意味ではYUKARI FRESHやEeLのような、2000年付近の後期/ポスト渋谷系を思わせるような、カラフルさと新奇性を取り入れた楽曲が印象的だった。
続く2018年にリリースされた配信曲群は、ときには童謡、ときにはシティ・ポップ、ときにはR&B、ときにはトロピカルハウス、ときにはマイアミベースと、一曲ごとに全く違うアプローチを展開。彼女の作詞作曲に加え、SHIMI from BUZZER BEATS(D.O.C.)らトラックメイカーとの二人三脚によって、その楽曲制作者としての幅の広さを提示している。2019年に入ってリリースされている楽曲も基本的には単曲ごとにリリースされており、YouTubeやサブスクリプションが聴取環境の中心になっている現代の形を表していると同時に、彼女の楽曲の方向性が、現状においては「パッケージ」という枠組みをすでに想定していないことを表しているだろう。そういった多面性はアサヒ飲料「ウィルキンソン」web CM出演や、Hoyu「Beauteen アンティークカラー」web CM曲、ネット小説大賞受賞作品「隣の席の佐藤さん」の実写PV楽曲を担当するなど、アプローチの振り幅の広さにも表れているように思う。