米津玄師「馬と鹿」がリスナーに提供するドラマとカタルシス リズムから楽曲を分析

 このリズムの仕掛けをここまで長々と考察したのにはわけがある。これだけ印象的で単純なリズムの反復にも関わらず、「馬と鹿」は反復に次ぐ反復によって起こる陶酔感とはまた異なる高揚を生み出している。それはたとえば「ずんずんちゃっ…」というパターンでおなじみのQueen「We Will Rock You」が生み出す一体感と比較するとわかりやすいし、先に引き合いにだした「ボレロ」の大団円とも違う。

 それにはもちろん、米津の書くメロディや彼の歌声の力もあるだろう。しかし、この曲がワンフレーズの単純な反復を通じた一体感や恍惚のかわりに張り詰めたドラマチックな緊張感を湛えているのは、こうしたリズムの仕掛けや、ところどころ効果的に挟まれる「タメ」のような数小節にあるのではないだろうか。さらに、息詰まるような痛みを綴った歌詞もあいまって、この一曲はリスナーを緊張状態に引き込みながらひとつのドラマを聴き通すように促す。

 そしてやはり、不協和なグリッサンドである。「解決」や「終止感」(最後に「じゃ~ん!」とキメるような)のかわりに、きりきりと上昇するストリングスが緊張感を高め、ふっと鳴り止んで静寂と共にカタルシスが訪れる、というやり方をとっている。「馬と鹿」がリスナーに提供するドラマとカタルシスは、聴くほどに巧みで、米津のクリエイティブなビジョンの広さを予感させる。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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