日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』主題歌、米津玄師「馬と鹿」が劇中にもたらす雰囲気

 米津玄師の最新曲「馬と鹿」は、大泉洋主演、池井戸潤原作のTBS系日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。このドラマは池井戸潤の同名小説を『ブラックペアン』『下町ロケット』を手がけた福澤克雄らが演出、丑尾健太郎らが脚本を担当し、実写化したもの。大泉洋演じるトキワ自動車のエリート社員・君嶋隼人は、常務に反対意見を述べたため、府中工場に左遷されてしまう。さらに、多額の負債を抱える会社のラグビーチームのゼネラルマネージャー(GM)まで任されることに。ラグビーについて知識も経験もない君嶋が、チーム再建に挑んでゆくストーリーだ。ちなみに「ノーサイド」とは、ラグビー用語で試合終了のことであり、敵(SIDE)と味方(SIDE)の区別をなくし(NO)、互いの健闘を称え合うこと。ラグビーの精神そのものである。しかし第1話で「きっとビジネスの世界にノーサイドなんてない」と君嶋の妻(松たか子)が語った通り、相手と健闘を讃え合うことなく、君嶋は問答無用で現場を外されるのである。

米津玄師『馬と鹿』(通常盤)

 米津は主題歌について、「大泉洋さん演じる君嶋が、逆境の中をひとつひとつ進んでいく様をどうにか音楽にできないかと探っていった末にこの曲ができました。素敵なドラマとご一緒できて嬉しいです」(参照)とコメントしている。第1話で流れた同曲は、序盤は静かに始まり、盛り上がりを迎える部分でハンドクラップのようなリズムが加わる。一歩一歩前進していく君嶋の姿、スクラムを組んで一丸となり進むラグビー部員たちの姿と重なり合う雰囲気だ。また、ラグビーの世界では、ニュージーランド代表のチーム・オールブラックスが試合前に「ハカ」という出陣の踊りを披露する歴史があるといい、そのリズムとも重なりうる。さらに、「祈り」のような雰囲気も醸し出されている。

 ストリングスの音色は日曜劇場らしく、物語に重厚感を与える。ドラマ本編中に流れると、登場人物の想いを代弁しているようで、より一層物語の世界に引き込まれていく。〈痛みは消えないままでいい〉と、痛みから逃げず進むさまは、突然の左遷やGM就任など、意に反する現実を受けとめ、チームを必死に再建していく君嶋の姿にも重なる。〈これが愛じゃなければ 何と呼ぶのか僕は知らなかった〉という言葉は、痛みを受け入れた者だけが気づける境地なのだろう。池井戸作品では、世の不条理に立ち向かう姿がよく描かれる。『ノーサイド・ゲーム』もまさにそのような作品であり、置かれた現状から逃げず、戦い抜いた者にこそわかる意味がある。そんなことを、同曲は語りかけてくるようだ。君嶋はビジネスの世界でも、「ノーサイド」を実現することができるのだろうか。

 第1話では曲の一部しか流れていないため、なぜ今回の楽曲が「馬と鹿」という題名なのかは定かではない。物語の展開と共にタイトルの意味について考えることも、毎週の楽しみの一つになりそうだ。

 同曲は9月11日、アニメ映画『海獣の子供』の主題歌として書き下ろされた「海の幽霊」と、新曲(タイトル未定)と共に、「ノーサイド盤」「映像盤」「通常盤」の3形態でシングルとして発売予定だ。ノーサイド盤は音の鳴る「ホイッスル型ペンダント」付きでレザージャケット仕様、映像盤は『米津玄師 2019 TOUR / 脊椎がオパールになる頃』のティザー映像と「海の幽霊」のMVを収録したDVD付きの紙ジャケット仕様となる。

■深海アオミ
現役医学生・ライター。文系学部卒。一般企業勤務後、医学部医学科に入学。勉強の傍ら、医学からエンタメまで、幅広く執筆中。音楽・ドラマ・お笑いが日々の癒し。医療で身体を、エンタメで心を癒すお手伝いがしたい。Twitter

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