センチミリメンタル、アニメ『ギヴン』OPテーマで表す愛の深さ “凶器”のような歌声と歌詞を分析
“凶器”の声で歌う“狂気”の愛
大きく息を吸うブレスの音で始まる「キヅアト」は、耳をつんざくエレキギターと、『ギヴン』で真冬が最初に歌い出したあの瞬間、立夏の心が動かされた声は、きっとこれだったんじゃないかと思うような歌声にハッとさせられる。自分に言い含めるように歌われるAメロは、孤独な感情の表れのようだ。幾重にも重なったコーラスが広がるBメロには、ギヴンのメンバーを表す〈春夏秋冬〉という言葉が出てきて、メンバーの支えによって前を向く姿が表現されている。スピード感溢れるサビは、自分の心の内の願望を吐き出すように歌われ、どこか少年っぽさがありながら、しかし内側からは熱いものがこぼれ出すような、ピュアな歌声が実に瑞々しい。舞台上で、まるで自分自身の感情をそのまま客席に向かってぶつけるような表現力は、無垢さゆえの強さと畏れが同居していると感じる。
温詞が手がけるソリッドなバンドサウンドやアレンジも、楽曲の世界観へと聴く者を深く導いてくれる。特にピアノだけをバックにしながら低く重たい歌声を聴かせるDメロは、非常に聴き応えがあって心惹かれるものがある。オーケストレーションされたサウンドをバックにしたパートでは、広い空に向かうように歌い上げる。高く晴れやかな歌声が広がるその様子は、生々しさの残る傷を受け入れて、1つに溶けていくような感覚がある。そこからのラストのサビには、傷を抱えて葛藤していたそれまでの姿はもうない。あるのは、すべてを受け入れ、決意し、覚悟を決めて凛として立つ姿だけだ。
この「キヅアト」という曲が秀逸で、聴く者の琴線にもっとも触れることができるのは、きっと誰もが1つや2つは持っている心の傷に、直接触れてくる感覚があるからだろう。心の傷というのは、触れられればその時の痛みがよみがえって疼き、時には膿が吹き出して傷口が広がってしまうことさえもある。たいていの人ならば、誰も触れることのできないように、胸の奥に鍵をかけてしまっているものだが、温詞はサビで、〈深くえぐって そのついでにいっそ記憶も奪ってよ〉と歌っている。すでに経験して知ってしまった痛みを、引きずり出して追体験することほど辛いことはない。しかし、それ以上の痛みを覚悟してまでも、その傷に触れてほしいと願う相手とは、その人にとって一体どれほど大きな存在なのか。過去に痛みを経験したことがある人ならば、きっと想像するだけで涙が溢れてくるだろう。
センチミリメンタルが昨年発表した「死んでしまいたい、」という曲には、〈いま僕が抱いているこの矛盾の数々こそが僕のすべて〉という歌詞が出てくる。同曲は、死んだほうが楽だと思えるほどの痛みを抱えながら、それでも生きたいと願う人間の本能や性を歌った。愛を知ってしまった人は、どんなに苦しくても、生きることを選ぶようにできているーー人はそれを“狂気の沙汰”と呼ぶかもしれない。『ギヴン』にも「真冬の声は、狂気で凶器だ」という立夏のセリフが出てくる。愛と狂気は、紙一重なのだ。そしてその矛盾が、数々のドラマを生んできた。センチミリメンタルの歌には、そのドラマがある。人間としての矛盾を孕んだ温詞の言葉と歌声は、まさしく“凶器”だと言える。
■榑林史章
「THE BEST☆HIT」の編集を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、これまでにインタビューした本数は、延べ4,000本以上。日本工学院専門学校ミュージックカレッジで講師も務めている。
■リリース情報
「キヅアト」
7月12日(金)から各音楽サイトで配信
■アニメ情報
TVアニメ『ギヴン』
7月11日よりフジテレビ“ノイタミナ”にて毎週木曜24:55 放送開始 ほか各局でも放送
FODにて独占配信
※初回放送は、7月11日(木)25時10分スタート、FODは 25時40分スタート
※放送日時は変更となる場合あり。
原作:「ギヴン」キヅナツキ(新書館「シェリプラス」連載中)
監督:山口ひかる
シリーズ構成:綾奈ゆにこ
キャラクターデザイン/総作画監督:大沢美奈
美術設定:綱頭瑛子
美術監督:本田光平
色彩設計:加口大朗
撮影監督:芹澤直樹
撮影監督補佐:中川せな
CG監督:水野朋也
編集:伊藤利恵
音響監督:菊田浩巳
音楽:未知瑠
アニメーションプロデューサー:比嘉勇二/秋田信人
アニメーション制作:Lerche
オープニング・テーマ :「キヅアト」 センチミリメンタル
エンディング・テーマ :「まるつけ」 ギヴン
<CAST>
佐藤真冬:矢野奨吾/上ノ山立夏:内田雄馬/中山春樹:中澤まさとも/梶 秋彦:江口拓也
村田雨月:浅沼晋太郎/鹿島 柊:今井文也
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