私立恵比寿中学の飽くなき音楽探究心 川谷絵音、吉澤嘉代子、大森元貴らの提供曲から感じたこと
そんな彼女たちの実力を、ロックファンに広く知らしめたのが、椎名林檎トリビュートアルバム『アダムとイヴの林檎』(2018年)への参加だ。オフィシャルYouTubeチャンネルにアップされているカバー「自由へ道連れ」のライブ映像では、その桁外れのスキルを堪能できる。
私立恵比寿中学 「自由へ道連れ」from 椎名林檎トリビュートアルバム「アダムとイヴの林檎」
遊び心を感じさせる安本彩花からの、男前なイケメンボイスが魅力的な真山りか。言葉をしっかりと噛みしめるように丁寧に表情をつけていく小林歌穂から、ロックな崩しをキメる中山莉子。サビではこれまでの流れを変えるように、伸びやかな歌声とたっぷりとしたブレスで譜割の大きいメロディを紡ぐ星名美怜、最後は安定感のあるファルセットを響かせながら柏木ひなたが締めくくる。このシームレスな歌割りが巧妙かつ周到であり一切の隙がない。なにより、原曲と椎名林檎へのリスペクトをひしひしと感じさせながら、エビ中のアイドルソングとして完成させている様は圧巻だ。単に“歌唱力”という表面的な技術だけでなく“歌を聴かせる”ための表現力、その術を心得ているからこそ生まれる説得力がある。
エビ中はこれまでも、U-re:x(村田有希生/my way my love)、TAKUYA(ex JUDY AND MARY)、加藤慎一(フジファブリック)、尾崎世界観(クリープハイプ)……などなど、数多くのアーティストが手がけた楽曲を歌ってきた。今、アイドルが著名アーティストから楽曲提供を受けることは珍しくはない。音楽性の幅を広げることはもちろん、話題性を含めて多くのグループで行われていることだ。しかしエビ中の場合、そこだけに収まらない面白みがある。そのどれもが作曲者の顔が浮かぶ曲になっているという点だ。
今年3月にリリースされたアルバム『MUSiC』。複数のアーティストからのクセの強い楽曲群を、しっかりとまとめ上げている妙味が実に見事である。さらに特筆すべきは“エビ中が、さまざまなアーティストから楽曲提供を受けている”という点だけでなく“さまざまなアーティストが、エビ中に楽曲提供している”という見方もできる、いわば作曲者のファンも楽しめる内容であるということだ。
岡崎体育の提供した「Family Complex」は、彼らしさ溢れる遊び心と突っ込みどころを凝縮した作風ながら、歌詞を含め、現在のエビ中にしか歌うことのできない楽曲である。そして、「曇天」を書いた吉澤嘉代子は、女性観のリアルと幻想的な物語が交錯していくような独自性を持った、自己表現を得意とするシンガーソングライターであるが、そんな彼女がこれまでエビ中に3曲提供していることも興味深い。
「曇天」は、エビ中にとっても、吉澤嘉代子としてもこれまでにないタイプの楽曲であり、お互いの相乗効果によって、双方の新しい魅力が引き出された楽曲といえるだろう。
私立恵比寿中学 「曇天」MV
こうした楽曲に共通するのは、作曲家が自身で歌う曲とは違う方向性であったり、異なった制作手法を試みたりしていることである。つまり、エビ中にインスパイアされながら楽曲を書いているのだ。