私立恵比寿中学の飽くなき音楽探究心 川谷絵音、吉澤嘉代子、大森元貴らの提供曲から感じたこと
「どんな楽曲であっても自分のものにしてしまう」
アーティストを称賛する言葉としてよく使われる文言だ。確かなスキルに裏打ちされたオリジナリティで色付けをしながら自分の曲として昇華させていく。たとえカバー曲であっても、そう思わせないほどに聴き手を圧倒させる、それが出来るアーティストは多くはないだろう。しかし、オリジナリティを全面に出しながらも、原曲ないし作曲者のカラーをきちんと伝えていくことはそれ以上に難しいことであるように思う。
それを悠々とやってのけるアイドルグループがいる。「エビ中」こと、私立恵比寿中学だ。
6月5日にリリースされたシングル『トレンディガール』。表題曲は、ニューエイジ調のサウンドと、すらすらとしているようで複雑なメロディに乗る言葉の羅列が、空虚を浮遊する。邦楽ロックをかじっている人であれば一聴して、川谷絵音(indigo la End/ゲスの極み乙女。/ジェニーハイ/ichikoro)の提供曲だとわかるだろう。
私立恵比寿中学 「トレンディガール」MV
ストリングスアレンジとキーボードはちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)、ベースに休日課長(ゲスの極み乙女。/DADARAY)、ギターは景山奏(Nabowa)というichikoroのメンツに、気持ちいいほどビシっと入ってくるドラム、柏倉隆史(toe/the HIATUS)を加えた布陣。完全なるポストロックバンドに寄せて、エビ中メンバーたちがクールで無機的なボーカルに徹しているところも、川谷の作家性を感じることができる。それでいて、随所に少女らしい透明感が滲み出ており、しっかりとアイドル性が内包されている。まさに作家と演者のバランスが絶妙であり、聴けば聴くほど川谷楽曲の奥ゆかしさが感じられると共に、そこを綺麗になぞりながら、楽曲自体の魅力を浮き彫りにするエビ中の才幹も知ることが出来る、不思議な曲だ。
アイドルグループといえば、「センター」や「エース」と呼ばれる歌唱力の高いメンバーが軸となり、楽曲とパフォーマンスを構成していくことが一般的である。しかし、エビ中にはそれが当てはまらない。メンバー全員の歌唱力が申し分なく、パートが満遍なく振り分けられている。メンバーそれぞれに見せ場があるのだ。