香取慎吾の創作意欲はまだまだ止まらない 3カ月に及ぶ『NIPPON初個展』終了に寄せて
第3期になれば描くスペースが僅かになっていく。何度も塗り重ねて、重厚感が増していく作品。さらに、壁に空間がないのなら、と床に絵の具をたらし、裸足でステップを踏んで広げてみせる。ときには、NAKAMAのリクエストを聞き入れることもあった。また新元号への切り替わりという歴史的瞬間や、来場者数10万人突破という嬉しい出来事も次々と絵に追加されていったのだ。
そうして、今この瞬間を繋いで描かれた作品は、6月14日に「完成!」となった。名付けられたタイトルは『SK naht』。S=Shingo、K=Katori、naht=縫い目。“香取慎吾が紡いできたもの”であり、逆から読むと“Thanks”となる粋な計らい。彼は常々自分の作品について「一人でも多くの人に見てもらうことで、本当の意味で絵が完成するような気がしています」と話していた。表現=見る人を楽しませること、彼以上にそれを意識して生きてきた人がいるだろうか。
「余計なことを考えなくていい」。横尾忠則と『芸術新潮』(2018年3月号)で対談した香取は、この言葉がとても嬉しかったと、個展に合わせて販売された作品集のインタビューで語っている。アートとは人によって捉え方が様々だ。学問として追求している人もいれば、ビジネスとして展開している人も。そんな中で、「今、アートは純粋に楽しい。もがき苦しむ時間も含めて、楽しくて楽しくて、生きてる! と実感できる時間です」と話す香取にとって、香取のアートは企業や団体からの依頼もあるが、その原動力の根本にあるのは「ただ描きたい」という本能に近いもの。湧き上がる情熱のままに、生きることそのものだ。彼の創作意欲はまだまだ止まらない。
「ビルボードにも描いてみたいという漠然とした夢も昔からあります。街を歩いていると見かけるでっかい広告板です。しかも、広告として依頼されてつくったものが貼られるとかではなく、自分でお金を払って建物の上とかにあるビルボードを借りたい。そしてそれを誰にも言わず、時間があるときに、直接そこに絵を描いていく。見た人は「あれ何?」と思うけど、別に種明かしするわけでもなく……。ひょっとして、そういう受け取られ方も含めたすべてが、コンセプチュアルアートになったりするのかもしれません」
枠にとらわれず、自由に描く香取が、いつか挑戦したいという夢。パリ・ルーブルでの個展、そして今回の国内初個展……次々と夢を叶えてきた香取なら、きっと本人も驚くようなスピードで、それも実現していくのではないだろうか。
第3期の終わりに訪れた会場では、『SK naht』の横で流れ続けるメイキング映像から、香取の大きな叫び声が聞こえてきた。「まだ完成じゃな~い!!」それは『SK naht』の「完成」宣言が出る1日前の映像だった。もちろん、この作品について「もうちょっと」と言っている場面なのだが、香取にとって“表現していくこと“、そして“誰かを喜ばせたいと願いながら生きていくこと“そのものに、「まだまだ満足していない」と言っているようにも聞こえてきた。
楽しい楽しい3カ月間の初個展は幕を閉じる。だが、この個展の経験は、彼の中でまた次の作品に繋がっていく。幸い、彼のブログ『空想ファンテジー』では、ほぼ毎日イラストとストーリーが紡がれている。きっと、またSNSにアップした香取の絵に、NAKAMAがぬり絵をする企画が行われるだろう。そうして、またいつか香取のライブペインティングを楽しめるような個展が開催されることを期待しながら、私たちも彼に負けないくらい「完成!」と叫びたくなるような人生を歩んでいこうではないか。
(文=佐藤結衣)