乃木坂46、グループ転換期の中で胎動する新しい表現の型 横アリ公演からアンダーの未来を占う
その後、伊藤かりんと斉藤優里を呼び入れて12人体制でのライブに入る。斉藤優里の陽性のパフォーマンスが主役になる「13日の金曜日」や、伊藤かりんが共にライブの歌唱を支えてきた伊藤純奈との二人ユニットで披露した「釣り堀」と、グループを卒業する二人にスポットをあてながら、前後して1~3期が的確に配分されたユニット曲を並べ、現在のアンダーメンバーの柔軟さの中に、二人の卒業というイベントを織り込んでみせる。
12人全員でのアクトに入るライブ中盤、歴代のアンダー楽曲が連続して披露されるパートは、乃木坂46アンダーライブの歴史とアンダーメンバーの現在とが重ね合わさるような時間になる。「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」「ここにいる理由」といった、アンダーライブ初期を代表する楽曲から、「嫉妬の権利」「日常」などアンダーライブが大きな成長を遂げた時期までをつなぐ流れは、アンダーメンバーたちの足跡をあらためて思い起こさせるものになった。
乃木坂46のライブの中でもアンダーライブはとりわけ、自らの歴史をそのつど浮かび上がらせる瞬間が多い。それは、短い周期で人員編成やセンターを担当するメンバーの変遷を経ながら、またアンダーメンバーという難しい立場を背負いながら、それでもアンダーライブという企画を乃木坂46にとってひとつの大きなブランドに押し上げてきた、唯一無二の足跡ゆえである。そして、そのあゆみの最新の一歩となったこの日、かつての彼女たちとは違うキャリアの厚みを備えて、「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」で中田を、「ここにいる理由」で樋口を、「狼に口笛を」で和田をそれぞれセンターに据えて上演してみせる。それらの楽曲は、アンダーライブが築いてきた偉大な軌跡が今日に続いていることを印象づけた。
そのようにアンダーが歴史を紡いできたことの証明を言葉で示したのが、グループ卒業を迎えた伊藤かりんだった。アンコールのMCで伊藤は、自身が乃木坂46のキャリアを通じてアンダーメンバーとして活動してきたことに明確に言及しつつ、それでいてなお自身のアイドル人生を誇りに思うと語った。これまで楽曲パフォーマンスだけでなく、MCとしてライブで多くの局面を成立させてきた彼女が、自らのアイデンティティへの矜持を見せた言葉だが、これはまた、彼女が活躍し続けてきたアンダーライブが、その矜持に足るだけの歴史と成功を築いて現在に至るからこそ、いっそう実りのある言明になった。
そしてまた、変わり続けてゆくアンダーの現在像、未来像がうかがえたことが、グループにとって何より大きい。センターとしての強さを獲得した寺田が中心に立ち、また3期生個々の存在感が強くあらわれてきた今回の座組で歌われた、アンコールの「生まれたままで」や「乃木坂の詩」は、この先のアンダーライブの姿、あるいは乃木坂46全体の姿を予感させた。グループの大きな転換期にあたる現在は、新しい表現の型、新しいパワーバランスの胎動にふれるための、絶好の機会でもあるのだ。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。